02

「シャツ、洗ってあるから、着替えて」
「え、うん」
「美麗の家、行くよ」
「なんで?」

 きょとんとした私に、仁さんは呆れたような顔で言い募る。

「あのな、男の家に泊まったんだ。おじさんとおばさんに、しかるべき挨拶をしなきゃいけないだろ」
「そ、そうなの?」
「特に俺だぞ。あんだけ信頼されてたのにそれを裏切るような真似して……」

 私は考える。この間、仁さんに拒絶された時の私の荒れようを見ていたママは、ほんとうに仁さんを信頼していただろうか。その後私は仁さんの家に行かなくなったし、それに。

「……ママは、たぶん」
「え?」
「私たちのこと、気づいてたよ」
「え!?」

 複雑な事情をどこまでママが知っているかは知らないけど、野乃花に見咎められた首筋の絆創膏を、三年間も、すぐそばで私を見ていたママが見逃すはずはない。
 仁さんの家に遊びに行って長々帰ってこない娘の恋心など、とうにお見通しだったのではないだろうか。

「……マジかよ」
「でも、それでも私におかず運ばせたりしてたから、ある意味では信頼されてたよね」
「まずい……もうおばさんに合わす顔がない……」

 仁さんが頭を抱えた。そういえば。

「仁さん、いつから血吸ってなかったの?」
「は?」
「この三週間、ママがおかずを持っていっても一度もいなかったって言ってたけど」
「……」

 ばつが悪そうに黙り込んだ仁さんを見て、さてはママに居留守を使っていたな、と勘付く。そして、疑念は膨らむ。

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