01

 ふわふわと体が浮いている。
 見下ろすと、小さいころの仁さんが立ちすくんでいるのが見えた。近づこうとして、ふとそれをやめる。仁さんは、手をぎゅっと握りしめて、唇を真一文字に結んで、じっと何かに耐えるようにうつむいていた。
 その仁さんに駆け寄る影があった。あ、私、だ。
 黒いワンピースを着た私は、中学校の制服を着ている仁さんの横に立った。そして、仁さんが握りしめていた手を握って、泣いていた。
 悲しいのは仁さんなのに、どうして私が泣いているんだろう。そう思ったけど、でも、仁さんの表情が少しだけ和らいだ気がして。
 そのまま、私の意識がふっと浮上する。

「……」

 ぱちぱちとまばたきをする。仁さんの寝室だ、とすぐに分かる。部屋に差し込む光の加減からして、朝であることも分かる。

「……?」

 完全には開かない目で、ぐるりと部屋を見渡す。仁さんは、そこにいなかった。
 起き上がり、目を擦ってふらふらする頭を支えるように手を側頭部に置く。ぼんやりしている思考で記憶をたどり、思わず顔が赤くなった。
 それから、仁さんがとなりに寝ていないことがひどくさみしくなって、冷たいシーツを撫でる。そうしていると、ドアが開いた。

「目が覚めた?」
「じ、仁さん……」
「ん?」

 優しい目で見下ろされて、際限なく顔が燃えていく。それをふと笑って、仁さんはベッドの端に座り込んだ。

「美麗」
「……」

 髪の毛に手を入れて、優しくすかれる。それが心地よくて目を細めると、仁さんは、猫みたいだな、と笑った。
それから、まじめな顔をして私を覗き込んだ。

「身体は、大丈夫?」
「うん、平気」
「立てる?」
「うん」

 仁さんの手が差し伸べられて、ゆっくり立ち上がる。私が気絶している間に、仁さんの服を着せてもらっていたらしい。私はぶかぶかのシャツを着ていた。

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