05

 目が開く。ぼんやりとした頭で記憶を辿るが、どうにもあやふやだ。のそりと起き上がると、そこは仁さんの寝室のベッドの上だった。窓の外は真っ暗で、月と目が合う。
 なんで私、ここにいるのだっけ。
 ぼうっと指先を見つめていると、ドアが開いた。

「美麗」
「……仁さん」

 いつもの仁さんが、立っている。きちっとした服を着て、明るい茶色の髪の毛と、お揃いの色の瞳で私を見ている。

「身体、大丈夫か?」
「私……」

 徐々に、思い出す。昨日なのか、それともまだ今日なのか、夕方ここを訪れてからのことを。
 まるで別人のようになってしまっていた仁さんは、あれは現実だったんだろうか?
 首筋に手をやると、大きな布の絆創膏が貼られているのが分かった。ああ、ほんとうのことだったのか。

「悪かった」
「……どうして、謝るの?」

 帰れと忠告した仁さんを無視して首筋を無防備にさらけ出したのは私だ。血を吸ってほしいと望んだのも、私だ。仁さんは何度も何度も、私を拒否したのに。
 仁さんの手元を見ると、水の入ったガラスのコップがおぼんの上に乗っていた。

「飲んで少し休んで、帰りな。おばさんたちに、一応連絡はしたけど……心配してると思う」
「……」

 仁さんの心が、見えない。
 いつもと同じ穏やかな顔で、ベッドサイドのテーブルにおぼんを置いた仁さんは、私にコップを差し出した。受け取らないで、私は仁さんを真正面から見据えた。

「ねえ、仁さん」
「ん?」
「どうして、あんな状態になるまで、血を……飲んでいなかったの?」
「…………」

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