06

 なんとなく理解できる。たぶん仁さんは、いつからかは知らないけれどずいぶんの間狩りをしていない。だから、あんな状態になっていた。だからこそ、私が失神するまで血を欲してしまったのだ。
 仁さんが黙り込む。コップをおぼんの上に戻して、その水滴がついた濡れた手を私に伸ばしてきた。

「美麗」

 仁さんの指がするりと髪の毛を撫でて、そのまま首筋を通った。ぴり、と触れられた場所から甘い疼きが走る。そのまま絆創膏と肌の境界線を撫でて、苦しそうに顔を歪め自嘲するように口角を吊り上げた。

「俺は、もう少しうまくやれる奴だと思ってた」
「え?」
「そのときがきたら、美麗をちゃんと解放してやれると思ってた」

 長い髪の毛を指でもてあそびながら、仁さんはため息をついて目を伏せる。

「そのとき、って?」
「美麗が、恋をしたり、その恋が叶ったり、そういうとき」
「……」
「実際、うまくやれたと思ってた」

 ベッドのわきに座り込み、毛布に顔をうずめた仁さんのその茶色の髪に、今度は私が触れる。ぴくりと反応し、ほんのわずかに顔を上げた。

「でも駄目だったな」
「……」
「今更美麗以外の人間の血なんて、飲めたもんじゃなかった」
「……どうして?」

 そんなに、私の血は美味しいのだろうか。
 灰の空気すべてを吐き出すような大きなため息のあとで、思い切ったように、仁さんはぐっと顔を上げて上目遣いに私を見た。

「俺は、美麗を餌だと思ったことはない」
「……え?」
「美麗が、好奇心で俺に抱かれてたことは知ってた。そういうのに興味がある年頃だっていうのも分かってた。……ヴァンパイアの、人を惹きつける能力に釣られてたことも、ちゃんと納得してた。でも、我慢できなかったんだ」
「……」

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