04

「……、くそ」

 泣きそうに、仁さんの顔がくしゃっと歪み、それから、観念したようにつぷりと首筋に歯が立てられた。

「っあ」

 ぞぞぞっと、背中を久々の感覚が駆け抜ける。およそ一ヶ月ぶりで、それも、血を吸うだけの行為は初めてだった。仁さんはいつも私の血を美味しくするために、抱くから。
 でもきっと今の仁さんにはそんなことをしている余裕などないのだ。私の身体を掻き抱いて、強く抱きしめて、ずぐ、と首筋に歯を入れる。皮膚が破けて血管にも傷がついた心地を、涙目で受け止める。

「美麗、美麗」

 息継ぎで唇を話す合間に、仁さんが私の名前を呼ぶ。
 自分の名前はあまり好きじゃなかった。美しくも麗しくもない自分と、あまりに不相応な気がして、実際男の子にそれをからかわれたこともある。けれど、仁さんが呼ぶ「美麗」という音は大好きだった。いつからかは分からない、けれど仁さんの「美麗」は、ほんとうに美しく麗しいように響くのだ。
 きっとそれは、私が仁さんを好きだったから補正がかかっていたのだとは思うけれど。

「っあ、あ」

 目の前が涙で霞んでいく。仁さんは貪るように、口の周りを血でべたべたにしながら喉を上下させている。……このまま身体中の血液を全部搾取されたって私はきっと後悔しない。そう思えた。
 仁さんがようやくわたしの首筋を解放したのと、私の意識が途切れるのは、ほぼ同時だったように思う。

「……美麗……?」

思考が深淵に落ちる寸前、仁さんが私の名前を呼んだ気がした。

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