06

 でも、いいところが多いから好きになるわけじゃない。

「……私は、絶対応援しない」
「……ごめん」
「美麗、そのジンさんに好きって言った?」
「言ってない」

 仁さんは、きっと私が好きだって言ったら三年前のあの日、私を永遠に突き放していたと思う。そういうのは、面倒だと思っていそうだし、中学生になりたての女の子に好きだと言われても困るだけだ。

「言わないと、相手に伝わらないよ」
「でも、向こうは私のことなんとも思ってないし、もうふられたし」
「美麗はそれでいいの? 言わないまま、一方的にふられたままでいいの?」
「……」

 遠くで、一時間目が始まるチャイムが鳴った。私は少し考えて首を横に振る。

「分からない」
「あのねえ」
「自分がどうしたいのか、分からない」
「言わなきゃ駄目!」
「でも、もしかしたらもう、新しい人がいるかも」
「それでも言うの! 玉砕するの! じゃないと、消化できないし、次に進めないよ?」

 次。仁さんの、次がある?
 仁さんに告白して、そうすれば私が前に進むことができるのだったら、私は言いたくない。
 前に進むことに何の意味があるのだろう。そこに仁さんはいないのに。
 結局、野乃花はいろいろ言ってくれたけれど、私にはどうしても決心がつかなかった。今更仁さんに会って、何を言うんだ。好き? そんなの、仁さんにはきっとお見通しだった。お見通しの上で、ああなっていたのだ。
 階段を下りて教室に戻り、教科書を広げる。英文に目を通しながら、仁さんのことを考える。
 今頃涼しい顔で原稿を書いているか、狩りをしているのか、それとも、女の人を抱いているのか。
 何を見ても何をしても、考えるのは仁さんのことばかりなのに、次なんてない。
 大好きだから。うまく言えないけれど、それでも何を犠牲にしても一緒にいたいと思っていたから。だから今更仁さんのいない人生を想像することが、できない。
 おかしな話だ、もう、いないのに。

 ◆

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