05

「美麗は」
「うん」
「なんでその人のこと好きなの?」
「……仁さんは、意地っ張りで、そのくせさみしがりやで……だから私がさみしくないようにしてあげたかった。私といて少しでも安心してくれたらいいって思ってた」
「……」

 何とも言えないような顔をして押し黙った野乃花が、ぼそっと言う。

「それ、ほんとうに好きなの?」
「え?」
「そんなの、好きの理由になんないよ。意地っ張りのさみしがりやなんて掃いて捨てるほどいるよ、なんでその人にはそう思うのに、他の人には思わないの?」
「……」

 なんで仁さんにはそう思うのか。

「仁さんは、私に安心をくれるから」
「幸せはくれないくせに?」
「……だって、好きになるのに理由がいるの? 優しいからとか格好いいからとか可愛いからとか、そのほうが意味分かんないよ。そんなの、もっと優しい人が現れたらその人にすればいいし、理由が言えるなんて、代用がきくとしか思えない」
「……」
「うまく言えないけど、私は他の人がさみしがっても何も思わない。でも、仁さんがさみしがっていたらそばにいてあげたい。それだけ」

 めちゃくちゃなことを言っているのは分かっている。仁さんのいいところなんて、私はそんなにたくさん言えない。優しいけれど底知れなく冷たいし、意地悪だしプライドは高いし強がりだし。私はたぶん、篠宮先輩のいいところのほうが多く言える。

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