03

 それから二週間、私は表面上は何事もなく過ごしていた。
 篠宮先輩に、ありがとうを伝えられないまま、彼はどうやら私を避けているらしかった。大神くんがそっと教えてくれた。

「どんなふり方したか知らねーけど、先輩かなりへこんでるから、今はそっとしといてやって」

 大神くんの中で、完全に私が悪者になっている。事実を教えるつもりもないし、別にいいけれど。
 仁さんの家に行くこともなくなった。ママは、やっぱり何か悟っているようで、私にいつものように「これを仁くんの家に」というお使いを頼まなくなった。
 かといってママがその役目を果たしているかというと、そうでもないらしい。仁さんは、いつママが訪ねても留守のようだった。
 それを聞いて私の頭にまず浮かんだのは、狩りに出ている仁さんだった。
 突き放されたのに、いまだに仁さんのことばっかり。
 簡単に忘れられるなら、最初からこんなつらい思いはしていない。でも、忘れないといけない。それも分かっている。
 ふと思う、ママが昼間に訪ねても仁さんがいないのはどうしてなんだろう。昼間は、彼は外に出られないはずだ。

「美麗、最近元気ないね」
「……そう見える?」
「見えるも何も、目の下、可愛くないのいるよ」
「う……」

 野乃花が、いつものように私の前の席に座って顔を指差す。
 あんまり、寝れていない。寝ようとすると、ふと仁さんのことが頭に浮かぶ。それでやたらと苦しくなって泣きながら眠るせいで、目の下にはくまが出現している。

「ねえ、何があったの?」
「……ふられたの」
「え? あんたが篠宮先輩をふったんじゃなく?」
「それは、また別件で……」

 野乃花がふと辺りを見回して、立ち上がる。そして私についてくるように促すと、ホームルームが始まりそうな教室を抜け出した。

「どこ行くの?」
「んー、人のいなさそうなとこ」

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