06

 分かっていたこと、分かり切っていたこと。けれどその何気ない質問は、私の気持ちを打ち砕いた。
 仁さんは、私が誰と付き合おうが、何をしようが、どうでもいいのだ。無性に悔しくて、私は思ってもないことを口走る。

「仁さんには、関係ない」
「……関係ない?」

 口元を笑みの形に歪めて愉快そうな表情をつくる。そして私が開きかけていた門を開いた。どうやら、我が家に用事があるらしい。

「美麗は俺の餌だろ」
「そ、んなの」
「まあいいや。今日、夕飯呼ばれてるんだ」
「……」

 餌だろ、と言われたときに首筋をなぞられて、ぞくぞくっとあさましく身体が反応を示した。それを無視して、仁さんはさっさとインターホンを押してしまう。

「こんばんは、仁くん……と、美麗?」
「こんばんは」
「ただいま……」
「遅かったじゃない」
「ちょっとね」

 ローファーを脱いで家に上がると、ママがそうだ、と言う。

「美麗、せっかくだから、ごはんできるまで、仁くんに英語見てもらったら」
「え?」
「この間のテストで点数落ちたって言ってたじゃない」
「ああ……」
「美麗、部屋行く?」
「……うん」

 ママの手前、何事もなかったかのように振る舞うけれど、内心、今は仁さんと二人になりたくないと思っていた。でも、仁さんにとってはさっきのことなどなんでもなかったようで、あっさりと了承されてしまう。
 二階の私の部屋で、学習机に向かって座り、私は平常心を装って英語のテキストを開いた。

「ここを間違えて、先生の説明を聞いてもよく分からないの」
「どこ?」
「……!」

 仁さんが、座っている私の背後から覆いかぶさるようにして覗き込んでくる。硬直してしまった私に気付いて、仁さんは面白そうに笑った。

「がちがち」
「……こ、ここの文法が」
「気に入らない」
「……え?」

 英語の問題とは全然関係なさそうな単語に思わず顔をそちらに向けると、仁さんは、私に覆いかぶさったまま、首筋に鼻を埋めた。ぴくっと身体が反応する。

「これは、さっきの男のにおい?」
「え?」
「美麗のじゃないにおいがするけど」
「におい……?」
「まあ、いいか」
「あっ」

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