05

 おずおずと先輩のほうを見れば、彼はいつもの笑顔ではなく、捨てられた子犬のような心細そうな顔で、私を見ていた。

「あの、さ……」
「……」

 先輩の目が、うろうろと泳ぐ。それから、決意したようにぐっと視線を私に固定した。

「好き、だ」
「……」
「彼氏がいなくて、俺のことが嫌いじゃないなら」
「……」
「前向きに、考えてほしい……」

 掴まれた腕が、熱い。耳鳴りがした。
 それから、少し遅れて顔が赤くなって、心臓がばくばくと動き始めた。思わず、先輩に握られていた腕を引くと、それは案外簡単に外れた。
 先輩の大きな手に掴まれていた腕が、そこだけ別の生き物になったかのように、もう一つそこに心臓があるかのように、血液が集まっている。じわりじわりと、侵食される。何に?

「わ、たし……」
「返事は、急がないから」
「……」
「じゃあ、また明日」

 ぎこちなく片手を上げて、篠宮先輩が背を向ける。その歩きかけた足が止まる。私も、その方向を見た。ぼんやりと街灯から少し離れた薄暗いところに人が立っている。よく見なくても分かる。仁さんだ。白いシャツに、黒い細身のチノパンをはいている。
 仁さんのことを知らない先輩は、気まずそうにそそくさとその横を通って行ってしまった。残された私は、ぼうっと仁さんを見た。

「モテるね」
「……!」

 揶揄するようなその響きに、心臓がかあっと熱くなった。聞かれていたんだ、さっきの会話。
 近づいてきた仁さんが、ふと私の頬を撫でた。

「真っ赤だよ」
「あ。えと」
「付き合うの?」
「……」

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