04

 ため息をついて、ボールをカゴに入れて倉庫に戻す。けっこう重労働な上に、篠宮先輩に借りたジャージは汚れている。制服のままやっていたらと思うと恐ろしい。
 そのまま部活が終了して、私は帰ろうと鞄を持った。そこで、呼び止められる。

「上谷」
「先輩?」
「遅いから、送ってく。家近いだろ」
「ああ、いいんですか?」
「全然」
「じゃあ……ありがとうございます」
「着替えてくるから、待ってて」

 篠宮先輩とは中学が同じなだけあって、家も近所だ。もちろん、サッカー部の朝練だの放課後練だののため、行き帰りが一緒になることはまずないけれど。
 久しぶりに篠宮先輩と並んで歩いている気がする、と帰り道考えた。中学の、委員会で遅くなったとき以来かもしれない。

「部室で」
「え?」
「上谷送ってくってなったら、すげーからかわれた」
「……送っていくだけで?」
「そういう連中なんだよ。人のことですぐぎゃあぎゃあ言いたがる」

 野乃花みたいな人の集まり、と考えていいのだろうか。男の子も、そういう話、するんだな。あ、でもそういえば大神くんも、「男子の間で」とか言っていた。先輩はふうとため息をついて、少しだけ照れくさそうにした。
 そのまま話題は、サッカー部の面白い話になる。篠宮先輩は、話し上手だと思う。全然知らないサッカー部員の人の話でも、面白い。
 電車に乗って、地元の駅で降りた辺りで、先輩の口数が急に減った。

「どうしたんですか?」
「……上谷は、さ」
「はい」
「彼氏、いないんだよな」
「え、あ……はい」

 真剣な声色に、真剣な横顔。
 なんとなく、篠宮先輩の考えていることが分かるような気がして、でもそれはうぬぼれなんじゃないのって思ったりもして、私のほうも口を開けなかった。
 重苦しい沈黙。
 そして、駅からほど近いところにある私の家の前で、先輩が立ち止まった。

「じゃあ、送ってくれて、ありがとうございました」
「うん」
「また明日」
「上谷」
「……」

 家の門を押し開けようとした腕を掴まれて、時間が止まったかと思った。涼しい風が、ひゅうと吹く。

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