03
そのまま、篠宮先輩もそこに座り込んでボールを掃除し出したので、私は慌ててそれをやめさせる。
「先輩は、練習しててください!」
「今休憩時間」
「だったら休憩してください」
「休憩時間に何してもいいじゃん」
笑った篠宮先輩はそこに居座ることにしたらしく、しょうがなく諦めて甘えることにする。二人で世間話をしながらボールを拭いていると、ふと先輩が呟いた。
「上谷ってさ」
「はい?」
「彼氏いんの?」
「……はい?」
今日で二度目のきわどい質問。思わず、手をとめて先輩を見ると、先輩はボールを拭きながら、いつもと同じ、少し笑った顔で私を見ていた。
さっき大神くんに言おうと思っていたことを、舌に乗せる。声が少しだけ震えた。
「……いませんよ」
「ふうん……嘘っぽ」
「え!?」
「中学んときから思ってたけどさ、上谷って、なんか謎の色気あるよ」
「い、ろ……」
それはもしかして、先ほど大神くんが言っていたオーラのようなものだろうか。
明らかにうろたえた私に、篠宮先輩がふと笑う。
「これセクハラかな? でも図星だろ?」
「いや……心当たりが、まったく……」
嘘をつくのは上手なほうだと思うし、この状況、いきなり色気云々と言われてうろたえている状況なら、多少狼狽したままでも流してもらえる。結果、先輩もふうん、と唸って流した。
「だから謎の色気なのか。出所不明の色気」
「からかわないでください!」
「からかってないよ」
「顔が笑ってます!」
そうこうしているうちに、休憩時間は終わって篠宮先輩は練習に戻っていった。
色気、か……そんなものが私に備わっているというなら、確実に原因は仁さんだ。別に、それがいいとか悪いとか言わないけれど。仁さんによってつくられてしまった身体なんだな、と実感せざるを得ない。やっぱり、いいことではないのだろうけれど。
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