08

「美麗?」
「あ、うん……」
「さっきから思い出し笑いしたりぼうっとしたり……具合悪いの?」
「いや、別に」

 空を見てぼうっと思い出していたらしい。変な顔をしていなかっただろうか。首を振って雑念を払い、グラウンドに目をやる。ちょうど、篠宮先輩たちの試合がはじまるところだ。
 ボールを適当に石灰で引いたセンターラインに置いて位置を調整している篠宮先輩は、女子たちの視線をその一身に集めている。さわやかで、子犬みたいな笑顔が人気の先輩は、声援に男女関係なくいちいち笑って手を振っている愛想のよさがとてもいい感じだ。
 ホイッスルが鳴って、先輩がボールを蹴った。試合がはじまる。

「きゃー! 篠宮先輩ー!」
「がんばってー!」

 さすが、サッカー部のエースなだけあって、ボールさばきがほかの男の子たちとは一線を画している。篠宮先輩のほかにもサッカー部員はいるはずなのだけれど、それでもひときわ目立つ。
 気がつけば、自然と先輩ばかりを目で追っていた。と言うより、ボールが先輩の足元にある時間が長いのだ。
 味方からのパスをうまく胸でトラップして、先輩が一気に敵陣に斬り込む。ディフェンスをひとりかわし、またひとりかわして、キーパーとの一対一になる。思わずぎゅっと手を握って叫んだ。

「篠宮先輩!」

 キーパーと対峙してにやりと笑った先輩は、ぽんっとボールを蹴り上げて、そのボールは勇んで飛び出したキーパーの頭上を掠めゴールネットを揺らした。
 わっと応援席がわいた。私たちも、思わずはしゃいでしまうような見事なシュートだった。篠宮先輩が、ゴール前で味方にもみくちゃにされている。
 その一点と、あと一点を入れて、二点を守り切り、先輩たちのチームが勝った。二年のサッカーは、うちのグループが優勝だった。
 男友達とわいわい騒いでいた篠宮先輩が、私たちを見つけてピースした。ピースを返すとにっこり笑われて、篠宮先輩って犬みたいだなあ、と思った。ちなみに仁さんはきっとネコ科だ。

prev next