09

 結局、私たちのグループは総合優勝こそ逃したものの、二位だったのでまあまあの盛り上がりだった。野乃花は、私のあのシュートさえ決まっていれば、と笑いながらちくちくと攻撃してきたけれど。

「か、み、や!」
「あ、先輩」

 閉会式も終わり教室に戻る途中、篠宮先輩が寄ってきた。手には、タオルとスポーツドリンクのペットボトルを持っている。

「お疲れさまです、ゴール、格好よかったですよ」
「マジ!?」

 てらいなく素直に喜ぶ先輩が、私の頭を撫でた。

「上谷もなあ、もうちょっとでゴール決まってたのになあ」
「先輩!」
「ひひ、冗談」

 いたずらに笑って、篠宮先輩がふと視線を下げて何かに気がついたような顔つきになった。

「それ、怪我したの?」
「え?」
「首んとこ。アザみたいなのできてる」
「え、えっ!?」

 思わず首元を押さえる、先輩が言っているのは、仁さんの噛み痕のアザだ。もう目立たないから絆創膏をしていなかったのに、気づかれるなんて。

「この間、ちょっとぶつけて……でも、もう痛くないんで、大丈夫です」
「ふうん」

 篠宮先輩は少しだけ目を細めてそのアザを眺め、お大事にな、と言って去っていく。心臓がばくばくと音を立てる。先輩が友達にくっつかれて、談笑しながらその背中が小さくなっているのを眺めていると、野乃花が横から言う。

「やっぱ、美麗、篠宮先輩と付き合ってるでしょ」
「付き合ってないってば!」

 ヴァンパイアに噛まれたところはなぜか治りが早いから、油断していた。今度からはもっと気をつけないと、野乃花にからかわれるよりも、先輩にああいう邪推するような目で見られるのはちょっと嫌だ。
 野乃花の混ぜ返しを否定しながら私は、今頃涼しい部屋で涼しい顔をして仕事をしているだろう仁さんを想像して、なんとなくむなしい気持ちになるのだった。

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