06

 仁くんがため息をついたのが、見えないけれど分かった。それから、私の手を剥がそうとするので、力を込めてそれを拒否する。それでも男の人の力には勝てなくて、私の身体はいとも簡単に引き離される。

「美麗、たちの悪い冗談は……」
「最初にそう言ったのは仁くんだよ」
「……」

 制服のシャツのボタンを、震える手で外していく。仁くんに、あの人みたいに触れてもらえるなら、羞恥心くらい捨てられる。そう思った。
 こちらに向き直った仁くんに、はだけた制服のまま真正面から抱きつく。つい最近まで小学生だった。そんな未成熟な身体でも、それでも仁くんに触れてもらえるなら。
 彼が、息を飲む気配がした。

「本気で言ってるのか」
「……うん」
「俺に、血を吸われてみたいって?」
「うん」
「痛いことをされても?」
「……仁くんは、そんなことしない」
「……」

 迷うそぶりを見せる。目が泳いでいる。迷って悩んでくれる対象であることが高揚感を引き出した。私は、仁くんを決意に導くかのように、さらに強く抱きついた。
 ややあって、そっと顎に手がかかって顔を上げさせられた。

「後悔するよ」
「……」

 私が何か言う前に、唇が重ねられた。初めてのキスだった。
 でも、その瞬間に酔う間も浸る暇もなく、仁くんの舌が唇を割り入ってきて、ぐちゃぐちゃに吸われた。仁くんの肩に手を置いて必死でついていこうとするけれど、どうしても舌は逃げ腰になる。それを追いかけて、さらに深く重なる。後頭部と腰をその大きくて細い手で支えられて、髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でられる。

「ん、んっ」

 足ががくがくと震えて腰が抜けそうになる。それを、仁くんが支えてくれて、私はそっとソファに座らされた。足の間に彼がひざまずいて、下から見上げてくる。心臓が、壊れそうなくらいばくばくしている。
 すくい上げるようにキスをされて、下唇をやわく食まれる。なんだかひどく恥ずかしくなって、唇が離れた隙に弱弱しく声を上げる。

「……恥ずかしい」
「じゃあやめる?」
「……!」

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