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 篠宮先輩の後ろ姿を目で追いながら、野乃花やほかの友達がにやにやと笑う。篠宮先輩は、仲のいい人によく触れるので、けっこういろんな人とそういう誤解を生みがちだが、たしか今は誰とも付き合っていなかったような気がする。
 と言うと、じゃあ私たちにもチャンスあるよね、と友達が意気込む。

「サッカーの応援、行こう」
「うん」

 ぞろぞろとグラウンドのほうへ向かいながら、私は首元を押さえた。この間仁さんの家に行ってからすでに数日経過しているので、絆創膏をしていなくてもそんなに目立つことはないけれど、やっぱり気になる。
 仁さんは、こういう学校行事にもあまり参加していなかったと思う。室内競技もあるから日光は言い訳にならないのに、きっとどこかでサボっていたのだろうな、と思うとちょっと微笑ましい。

「美麗、何にやにやしてんの」
「え、別に」
「思い出し笑い、エロいよ」
「そんなんじゃ……!」

 かっと顔が赤くなる。別に、思い出し笑いではないけれど、そう言われるとわけもなくうろたえてしまう。
 そのまま、からかわれながらサッカーの試合をやっているグラウンドに到着する。天気は、曇りだ。日差しがない分、運動にも適している。でも、遠くのほうに不穏な雲のかたまりがあって、一雨きそうな雰囲気でもある。
 そういえば、仁さんと今の関係がはじいまったのも、こんな日だったなあ、と思った。私が中学校に入学してすぐのこと、こんなふうに、一雨きそうな曇り空の日だった。
 仁さんの家に、いつものようにママから頼まれたおかずを運びに行くところだった。その頃はまだ、私は仁さんのことを仁くんと呼んでいて、慕っていた。幼いなりに、ちゃんと恋だった。

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