07

 仁さんのキスは魔法みたいだ。ゆったりと唇を覆われて舌を差し入れられてくすぐられると、ほかのことなんて頭から飛んでしまう。どうでもいいや、ってなってしまう。激しく、でも優しく、仁さんの舌は私の口内を縦横無尽に動き回る。
 服を乱されて、仁さんも服を乱して。
 こうしていても、仁さんは私のように我を忘れたりはしない。どこか冷静で、ひんやりしたまなざしを私に向けている。
 相手を快楽に落とし込んでこっそりと血を頂戴するので当たり前なのだけれど、それがすごく悔しいときがある。
 もっと私に溺れて。そんなおこがましい気持ちが顔を出す。だって、私には血を吸うんだっていう目的を隠さなくてもいいでしょ、だったらもっと、もっと。
 いつものように、血色の瞳に見つめられて、揺さぶられながら首筋に歯を立てられる。いつもと同じ、制服で隠れない箇所。
 ずぐ、と肉を裂く音が、どうしよおうもない恐怖と快楽を乱暴に揺り起こす。

「ひっ」

 じゅる、と血を吸われる感覚は、気持ちいい。死ぬほど。穿たれているその場所よりも、仁さんの唇が吸いついているそこが熱い。

「美麗」

 呼吸をするために離した一瞬に、仁さんが私の名前を呼ぶ。透き通ったテノールで名前を紡がれると、すごく苦しい。特別高くもなく、特別低くもないその声が、私をどうしようもない快楽の海に溺れさせる。必死で背中に爪を立てて波にさらわれないようにしたって無駄だ、仁さんはいつも私をおかしくさせる。
 そうすると、血が美味しいから。

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