06

「……美味しい」
「そう、よかった。伝えておくね」

 にっこり笑った仁さんは、たぶん、その担当の人の恋心なんて見破っている。だって私に分かるくらいなのだ、直接会って話をする仁さんが気付かないはずがない。
 仁さんは、その人のことを抱くのだろうか。私にするように肌をなぞって、丁寧にほぐして、そして血をすうのだろうか。
 仁さんが立ち上がり、キッチンにタッパーを持っていく。その姿に背を向けて、私はひたすらクッキーを貪る。余った、なんて量じゃない、仁さんのために焼いたに決まっている。こんなあけすけなプレゼント、見たことない。
 食べ過ぎて、口の中がぱさぱさしてくる。それでも仁さんの口には一欠けらも入れたくなくて、ひたすら食べる。

「美麗」
「ッ」

 ぱくぱくと口を動かしていると、不意に背後から腕が伸びてきて抱きしめられた。全然気が付かなかった。ふっと耳に息を吹きかけられて、身体がびくっと反射で動く。それを面白そうに笑い、仁さんは首筋をぺろりと舐めた。

「ひゃ」
「こんな絆創膏、逆効果なんじゃないの?」

 くすくすと笑いながら、ゆっくりともてあそぶように剥がされる絆創膏。だいぶ薄くなった噛み痕があらわになる。

「友達に突っ込まれたりしないの?」
「し、しない」
「そう」

 仁さんは、たぶん分かっている。私が友達に絆創膏をからかわれたりしていること。でも、わざわざ制服で隠れないようなところを狙って噛みつく。その気になればきっと、シャツで隠れる場所にターゲットを絞ることもできるのに。
 仁さんは意地悪だから、きっとその意地悪の一環なのだ。私がこうして絆創膏をつけたり慌てたりするのを見るのが好きなのだ。
 絆創膏がひらりと床に落ちたと同時、私はソファに押し倒されていた。仁さんの顔は見えないけれど、おかしそうに笑っていることはなんとなく分かる。

「美麗が食べたい」
「……」

 黙って、覆いかぶさってきた仁さんの背中に手を回してキスをねだる。すぐに、降ってくる唇に上唇を食まれ、うっとりと目を閉じた。

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