05

 否定しない。そりゃあそうだ、その整った造作なら、否定したらなんだか逆に嫌味っぽい。
 仁さんのお父さまもお母さまもとてもきれいだったし、実際、仁さんの顔が整っているから、いろんな女の人を抱いて血を吸うなんてことができるのだし。

「今日、外出たの?」
「いや、日差しが強かっただろ、今日」
「……」

 ということは、家に、女性が来たのだな。仕事と分かっていてもいい気はしない。私にそんなことを思ったりする権利なんかないけれど。
 仁さんは完全なるヴァンパイアではない。イギリス人のヴァンパイアであるお母さまと、ふつうの日本人のお父さまの間に生まれたハーフだ。つまり、ヴァンパイアの混血。そんなことってあるのか、と思うけれど、実際仁さんはそうだ。
 ハーフであることによって何が起こるかというと、たとえば、お母さまはほんとうに日光が駄目だったらしいけれど仁さんは苦手程度で済んでいる。それから、お母さまは鏡に映らない人だったそうだけれど、仁さんは映る。伝承にある十字架やにんにくなどは、お母さまにも効かなかったそうなので、ああいうのは嘘らしい。
 全部過去形なのは、お母さまが亡くなっているからだ。仁さんのご両親は、十年前に亡くなっている。
 交通事故でお父さまが不慮の死を遂げてから、お母さまは後を追うように自殺した。当時中学生だった仁さんは、それからずっと、ひとりぼっちだ。
 なので、生前お母さまと仲の良かったうちの親は、仁さんが成人した今でも我が子のように心配している。

「ねえ、仁さん」
「何?」
「そのクッキー、食べていい? おなかすいちゃった」
「ああ、いいよ。俺は甘いものはそんなに好きじゃないから」

 あっさりと、その包みは私の手元に投げられた。キャッチして、まじまじと見る。見れば見るほど、バレンタインの本命チョコ並みに気合いの入ったラッピングだ。ピンク色のリボンが可愛いのが憎たらしい。
 嫉妬心から、そのラッピングを少し乱暴にほどいて、出てきたハート型のクッキーを口に入れた。バターのいい匂いが鼻をくすぐる。さくさくしている、ふつうに意外性もなく美味しい。もやもやする。
 仏頂面で食べていると、気付けば仁さんは肉じゃがを食べ終えて、私を見ていた。

「美味しい?」

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