03
「俺はろくに学校に通えていないから、美麗がちゃんと楽しんでるのを確認して疑似体験しているだけだよ」
「……楽しいよ」
「それなら、よかった」
指についたロールキャベツの汁をぺろりと舐める。うごめく舌に、背筋をぞくりと何かが駆け上がった。
それをごまかすように笑い、私はテレビをつけてザッピングする。
「今日は、何も面白い番組やってないね」
「ん? そう?」
ロールキャベツに舌鼓を打っている仁さんは、まるで興味がなさそうだ。私は呆れて振り返る。仁さんは、一生懸命ロールキャベツを崩さないように格闘している。
「仁さん、ロールキャベツはおかずだよ、主食は?」
「朝、パンを食べたよ」
「今」
「美麗」
流れてきた視線から、目が逸らせない。
たしなめるように私の名前を呼んだ仁さんは、淫靡に口元を歪ませて舌で唇を舐めた。
獲物を見つけたネコ科の肉食獣のように、獰猛に目を細める。優しかった茶色の瞳や髪の毛が、突然に獣の色をまとう。
「俺の主食、知ってるでしょ」
「そ、ういうことじゃなくて」
「どういうこと?」
「……その、ごはん、食べないと……」
「食べるよ、これから」
仁さんの手が、私のほうに伸びてくる。逃げられなかった。逃げる気もなくしていたけれど。
あっという間に肩を掴まれて、ソファに押し倒される。かたちだけの抵抗をすると、仁さんはふと笑みを零して私の頬を撫でた。
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