02

 仁さんの家に行くのはいつも、夕方になってからだ。ママには、仁さんのところに行く、とちゃんと言ってある。
 彼はとても信頼されていて、あまりに回数が多いと「仁くんに迷惑かけたら駄目よ」と、私がたしなめられるほど。
 それは、仁さんと私の間に何かあるだなんて誰も疑わないということで、裏を返せばそれだけ私がこどもであることを意味している予感がして、なんとなく面白くないけれど。
 ママがつくったロールキャベツをタッパーに入れて、仁さんのマンションへ向かう。玄関のオートロックを手慣れた作業で突破して、エレベーターで三階まで昇る。仁さんの部屋のドアの前に立ちインターホンを鳴らすと、少し間があってドアが開き、背の高い男が顔を出した。

「いらっしゃい」
「こんばんは」

 にこりと微笑んだ仁さんのその相好に、胸が高鳴る。それは、高揚なのか畏怖なのか、理由のよく分からないもので、私はそれを隠すように俯いて、タッパーを差し出す。

「これ、ママから」
「ああ、いつもありがとう」
「仁さん、ろくなもの食べていないと思われてるよ」
「ははは、それは参ったな」

 上がって、と言う彼のあとについて、部屋に入る。斜め上にある、仁さんの明るい茶色の癖毛を見る。イギリス人とのハーフである彼は、瞳も髪の毛も、明るいはちみつのような茶色だ。優しい色合いのそれが私はとても好きで、そして仁さんの人柄にとても似合った色だと思っている。

「美麗」
「ん、何」
「学校はどうだった」
「……パパみたいなことを聞くよね、仁さんって」
「……。そう?」

 にっと口の端を上げた仁さんが、ロールキャベツを皿にあけながら私にぼやく。

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