04

「顔、赤いね」
「……」
「可愛い」

 思っても、いないくせに。
 うれしいことを言われたはずなのに、素直に喜べなくて顔をそむける。その拍子に髪が流れてあらわになった耳に吸いつかれた。

「ひゃっ」
「いい声」

 そのまま、仁さんの手は私の身体を這いだして、耳を食まれたままのその緩慢な愛撫に、期待でとろけそうになるのをこらえて、唇を真一文字に引き締めた。
 それを見て、仁さんはやはり笑う。

「美麗」
「……!」

 仁さんの手が唇が次にどこへ行くのか、そればかりが気になって、はしたない、そう思うけれど芯からほどけた身体はもう言うことを聞かないのだ。

「じんさん」

 指が、唇が、舌が、私の身体を我が物顔で這い回る。ソファの上は狭いけれど、そんなことも気にならないくらいの熱がみぞおちを駆け上がってどすんと落ちて溜まっていく。
 私ばかりが乱されて、仁さんは涼しい顔をしている。それが悔しくて名前を呼ぶと、ほんのわずかに彼の視線が熱を帯びた気がした。

「仁さん、仁さん」

 必死で、流されないように掴まるように名前を呼ぶけれど、私が飲み込まれそうになっているのは仁さんそのもので、矛盾している。けれど、呼ばずにはいられなかった。
 揺さぶられながら、押し寄せる濁流に逆らわずに流されていく。熱いふっとうしたようなかたまりが頭の奥を叩いている。ぎゅっと目を閉じて、ゆっくりと開く。

「……そろそろいいかな」

 仁さんが独り言のように呟く。私に答えを求めているものではなかったけれど、必死で頷いた。仁さんの唇が首筋に落ちる。そして、そこに歯が立てられて、鈍い痛みが襲った。
 仁さんのはちみつのようなとろっとした瞳は、血色に染まっていた。

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