第一印象は、とにかくモテる人だった。
イケメンで、気さくで、接客もスマートで。こんな完璧な人が世の中にいるんだなぁ…なんて、遠まきに眺めてた。
とにかく彼は何をするにも完璧すぎたし、周りにはいつもたくさんの女の子がいたから、どうにも近寄りがたくて距離を取ってたんだ。
…でも、少しずつ、彼に対する印象は変わっていった。
同じ町の仲間として関わるうちに、決して完璧ではない彼の一面を目の当たりにするようになって。もしかしたら、意外と身近なのかもしれない…なんて、失礼な事を考え始めてからは、よく二人で話すようになったっけ。
仲のいいフリッツを交えて遅くまで飲んだり、彼に料理を教えてもらったり。多くの時間を共有してみれば、実は彼は全然完璧なんかじゃなくて。
それでも、彼なりにレストランの経営に真っ直ぐに向き合って、一生懸命に努力する様子が…純粋に、格好良いと思った。
しばらく思い出に耽っていたら、表情が緩んでしまっていたらしい。そんな私とは真逆に、緊張した面持ちで、じっとこちらの様子を窺うレーガと目が合った。
…ごめんごめん、ちょっと焦らし過ぎだよね。
「ありがとう。わたしもレーガが大好きだよ。…だから、私からも…付き合ってください。」
改まると少し恥ずかしいけど、想いを伝えてくれた感謝も込めて、わたしは彼に向かってぺこりと小さくお辞儀をした。
指輪をそっと渡すと、既に充分赤みがかっていたレーガの頬がさらに赤く染まっていく。
モテるはずなのに、こんなにも純粋な反応が返ってくる。こんなの、ドキドキが伝染しちゃうに決まってるじゃないか。
ついには彼のことを直視できなくなって、俯いていると、ふわりと言葉が降ってきた。
「…サンキュ、なまえ。絶対、大切にするからな…。」
心から絞り出すようなその声に、胸がきゅうっとして、温かい気持ちがじんわりと体じゅうに広がっていく。
彼の姿を目に映しただけで、幸福感とほんの少しの苦しさに満たされていく。
好きな人が自分を好きでいてくれるって、こんな気持ちになるものなんだ…。
「わたしも、レーガのこと、ずっと大切にするね。」
紡いだ言葉は風に溶けて、二人の空間を優しく包んだ。
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「おおーっ!おめでとう!よかったじゃん、二人とも♪」
「しーっ!しーっ!!声が大きい!!」
親友のフリッツも交えて、夜ご飯をレーガのレストランで食べるのは、もはや日課と化していた。
正確にはわたしたち二人が食事をしながら語り合うのを、レーガが仕事をしながら時折ツッコミを入れたり、じっと聞いていたりするんだけど。
今日に限っては、一緒にお付き合いの報告をフリッツにしようということで、三人きちんと椅子に座ってテーブルを囲んでいる。
「…まぁ、いずれ広まる事にはなると思うんだが…急には、ちょっとな。」
「そっか…そういうペースってあるよな。ごめんごめん。」
テーブルに乗り出していたフリッツは、椅子へ腰を落ち着けると、頭をぽりぽりと掻いて悪びれた。
「それにしても、二人がなぁ…。オレ、ちょっと寂しいぜ…!」
娘を嫁に出す父親のように、くぅ〜っと唸ってみせるフリッツ。
「…でも、フリッツのお陰で私たちも話すようになったんだよね。」
「あぁ、そうだな。あんたがレストランになまえを連れて来てくれたお陰でこうなったわけだし……その点はホント感謝してるよ。」
「お、おう。なんだか照れるぜ…!!……とにかく、二人のこと応援してるから、何かあったらどんと頼ってくれよな!!」
言葉に合わせて、どん、と拳を胸に当てるフリッツは、どこから湧いてくるのか知らないが自信満々だ。
調子のいい彼の様子に、レーガと私は目を見合わせた。
「フリッツかぁー…心配だなぁ…」
「うん、心配だな…」
「えー…。二人とも、そんな深刻な顔でオレを見ないでくれよ〜…」
「冗談だって、半分くらいは。」
「うんうん、半分…って、残り半分は!?残り半分はなんなんだ!?」
三人で過ごす楽しい時間。レーガと私が付き合い始めたからといって、それが崩れることはなくて、なんだかとてもホッとした。
大事な恋人に、大事な親友に、町のみんな。
大好きな人たちに囲まれて過ごすこれからの毎日に、幸せな未来を思い描いていた私は、この先に待ち受けている受難の日々など、欠片も想像していなかったのだった。
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