「今度また、レーガにお料理教えてもらおうかなぁ…。」

「それも良いな。なまえと一緒に料理するの、楽しくて好きなんだ。」

「えっ、そうなの?なんか、それって嬉しいかも。」


レーガと一緒に食事をした後、二人で流し台に並んで食器を片付けながら、私は和やかな気持ちになっていた。
彼に悪い事をしてしまって、昨日はすごく悩んだけど…。今日は喜んでもらえたみたいで、本当に良かった。

食器の片付けを終えて、タオルで手を拭く。

一段落したところで、少しばかり席を外すことをレーガに伝えて、クローゼットに置いたリュックを見に行った。
フリッツと帰ってきた時のまま、中身を整理してなかったから、リュック自体はまだ少し湿っぽい気がするけど…。しっかりと包装しておいたおかげで、ブレスレットは無事だった。

私はそれを右手でぐっと握って、拳ごと背中に隠すと、既に椅子に落ち着いていたレーガの正面に立った。


「あのね…。レーガに、プレゼントがあって。」

「え…?」

「本当は、昨日渡すつもりで用意したんだけど…行けなくなっちゃったから、」

「……?」

「これ…レーガに、似合うといいなって、思って…」


手作りしました、とまでは言えなかったけど。
差し出したブレスレットを、おずおずと受け取ってくれたレーガは、それを大事そうに手でつまんで、色んな角度から眺めた。


「なんか…すごい、オレの好みなんですけど…」

「そ、そうかな」

「うん。めっちゃ気に入った。今、付けてもいいか?」

「も、もちろん!」

「…しかし、毎朝貿易ステーション見てるけど、これ、どこで買ったんだ?」

「……」

「え、もしかして、」


なまえの手作りか…?と聞かれてしまえば、私は頷く他になくて。
気恥ずかしくなって目を逸らしたけど、レーガがこちらを見つめる視線がひしひしと伝わってくる。
うう…あんまりじっくり見ないでほしいな、私も、そのブレスレットも。


「あー……」

「?」

「オレもさ、なまえにプレゼント、用意してたんだけど」

「えっ」

「手作りの前じゃ霞むっていうか…」

「そんなことないよ…!」

「すげー渡しにくいけど、とにかくこれ、貰ってくれたら嬉しい。」


そう言ってレーガが私の目の前に差し出したのは、ハートのモチーフが付いたネックレスだった。
…というか、これだって、町で売ってないものだよね。
きっと、わざわざ遠くまで行って買ってくれたんだと想像したら、頬が緩んだ。


「ありがとう…!」

「いや、こちらこそ、サンキュ。」

「…お互いに、アクセサリーを用意してたなんてね」

「ホントだよな。…でも、同じこと考えてたと思うと嬉しいな。」

「そうだね。」

「…なまえ、付けてやるよ。」

「…ん。」


後ろを向いたら、首元に、レーガの手が触れて。
どくどくと熱が集中するのを感じたけど、それは全然嫌じゃなくて。


「…あのさ、」

「…?」

「オレ、明日休みなんだ。」

「……!」

「なまえさえ良ければ…今日、泊まっていっても良いか?」


ごく自然な流れで紡がれた言葉に、鼓動が早まる。
けど、断る理由は見つからないし…レーガがそれを望むなら、と。
彼に真っ赤な顔を見られないよう、背を向けたまま、こくりと頷いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




…どうしよう。

一緒に布団に入るまでは、まだよかったんだけど…
布団に包まってから、レーガに背を向けたまま、彼の方を見られずにいた。

いつもは一人で使っているベッドの半分のスペースが、妙に窮屈に感じて、心臓がドキドキと五月蝿く鳴っている。背中が…熱い。


「…なまえ。」

「はっ、はい!」

「その…こっち、向いてくれると嬉しいんだけど……」

「あ、そ、そうだよね…。」


恋人なんだから、当たり前だ。
きしきしと固く、動こうとしない体にそう言い聞かせて、なんとか体をレーガの方へ向けた。
…けれど、いざ彼を前にしてみると、ベッドに横たわる二人の距離はものすごく近くて、心臓が爆発しそうになる。

レーガと見つめ合う。それ自体には、日を重ねてだいぶ慣れたはずなのに。
状況が違うだけで、こんなにもそわそわと落ち着かない。
次に彼が、何を言うのか…。それとも、私からなにか言うべきなのか。
暗がりで静かに光る、彼の深い青緑色の瞳に、吸い込まれてしまいそうだった。


「…なぁ、なまえ。」

「?」

「……いや、やっぱ今はいいや。もっと、くっついても良いか?」

「え…あっ、うん」

「ん…」


衣擦れの音がして、レーガが私の身体を包んだ。
直接触れ合う体温に、鼓動が加速する。

眠れる気がしない。こんなにドキドキして、身体が強張って。
体を縮こめて、彼の胸に顔を埋めていたら、前髪の辺りに彼の吐息を感じて。すべてが、緊張の種になる。


「なまえ…」

「…!」


自分の名前が甘く呟かれたそのとき、彼の手が私の前髪を掬い上げて、額に唇が触れた。


「…愛してる。オレ、絶対になまえのこと幸せにするから…」


咄嗟には返す言葉が思い浮かばなくて、かと言って顔を上げて視線で答えることもできなくて。
私は俯いたまま、こくこくと何度も頷いた。
彼の腕に力が込もって、そんな私の身体をぎゅっと抱き締める。

さらに密着して、ぐらぐらと沸騰しそうな頭の片隅で、ふと違和感が過った。


(そういえば、さっき、彼は何を言おうとしたんだろう…。)


彼の顔を見たら分かるかもしれないと思ったけど、今の私はとても顔を上げられなくて。
そうしているうち、あれきり口を閉ざしたレーガの本音は、闇の底へ沈んでいってしまった。






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