恋するオトコノコ

 居酒屋のカウンターで飲んでいた時は、まさかこんな展開になると思わなかった。桜城のことを恋愛対象で見たことがない、といえば嘘になるが、基本的にはいい友達だと思ってた。
 よく男女間での友情は存在しないとか言うけど、あれって本当なんだなとつくづく思う。一度"女"だと意識すれば、もうそうとしか思えないから不思議なものだ。

 俺の家でのんびり過ごす日も増え、緩いシャツにすっぴん姿も見慣れた。くだらない話で盛り上がり豪快に笑う姿はまるでおっさんのようだが、まぁそんなところも可愛いな、なんて。本人には言ってないけど、そう思うこともしばしばあった。
 白くてスベスベしてそうな肌に触れれば、やっぱりスベスベしてて気持ちいいし、ぷくっとした頬と唇にはかぶりつきたい衝動に駆られる。意外にもしっかりある胸の膨らみなんかも気になってしょうがない。正直すげー触りたいけど、それやっちゃうと多分我慢できないからいつも違うことを一生懸命考えたり。
 最近の桜城はびっくりするくらい綺麗になったと思う。いつも近くにいる俺がそう感じるんだから、同じ部署の奴らもその辺は敏感だった。当の本人はのほほんしたもんだから不安で仕方がない。

「最近桜城エロくね?」
「つうかあんな美人だったっけ?」
「雰囲気少し変わったよな」

 俺のなんであんま見ないでくれます?と、喉まで出かかった言葉を冷めた珈琲で流し込んだ。今まで感じたことのないモヤモヤが鬱陶しい。今すぐ桜城を連れ出したかったけど、そんなことするわけにもいかず、とにかく無心で仕事の山に向かうしかなかった。


「今日一緒に飯でも行かない?」

 俺の嫌な予感は的中。俺はこんなに心の中を乱されているというのに対し、相変わらず綺麗に微笑んでる桜城。それを見た瞬間、口が勝手に開いてあいつの名を呼んだ。
 俺を視界に入れた桜城の顔から血の気が引いていったのは少し面白かったけど、それくらい恐ろしい顔をしているんだろうな今の俺は。
 口では文句を言ってたけど、桜城の手は少し震えていて、そのことに気が付いてたにも関わらず優しくなんてしてやれなかったし、優しい言葉もかけてやれなかった。挙句、心にもないことまで言った。子供みたいな独占欲とつまらない嫉妬。
 重力に逆らうことなくベッド目掛けて倒れこみ自己嫌悪。去り際の桜城の顔が頭から離れてくれない

「あぁ、くそっ」

 俺って結構束縛する奴だったらしい。