「よぉおおおし!力が湧いてきたぁああ!!」
そんなわけはないけどね。
ハッピーは心の中で冷静にツッコミを入れつつ、助けになってくれそうな魔導士をピックアップする。
この場合、グレイよりも、ルーシィと仲の良い魔導士か。とにかく、規則に厳しいエルザにだけは知られてはならない。しかしナツを止めてルーシィを助け出すには、兎兎丸に勝てる強さを持った魔導士じゃないと。そして兎兎丸にグレイを……って、こんなのエルザくらいにしか出来ないじゃないか。複数人呼ぶべきか。いや、大事になる。
焦る思考が空回りするのを自覚して、ハッピーは小さく舌打ちした。すると、
ぐぉおおおおお!
「なっ…!?」
急に視界が眩しく照らされた。痛みに細めながら目を向けると、ナツがさっきまでとは比べ物にならない程の炎を全身から生み出している。
「うぉおおおお!!」
喉が引き千切れそうな叫びに呼応して、炎がその大きさを増す。圧倒的な破壊力を持ったそれが風を生み、ハッピーは吸い込まれそうになって慌てて這い蹲った。
なんだこれは。
使い魔の契約を解除したからといって、こんなに変わるはずがない。
ふと、思いつく。
ハッピーは使い魔を辞めることでどうなるかは説明しなかった。ナツは勝手に『制限』が無くなると思ったようだが。
まさか、ナツは『制限』が無くなったと思い込んだ?勘違いと思い込みで、これほどまでに?
なんて単純な。
ハッピーは呆れて息を吐き出そうと――したが、肺の空気まで根こそぎ奪われそうに感じて口を閉じた。
すると、
びきぃっ!
氷に、ヒビが入った。
「な…!?」
信じられない気持ちで、目を擦ってみる。紛れも無く、ヒビだった。
もしかしたら、ナツは本当にやり遂げてしまうかもしれない。
グレイを、助け出せるかもしれない。
「ぐ、がぁあああ!」
氷の変化を認め、ナツが調子付いたようにまた火力を上げた。炎に直接当たっている部分がじわりじわりと溶け、変形していく。
「…グレイ…!」
「コイツか…!!」
氷の層が一部薄くなり、中に鎖された肌色が見えてきた。
ハッピーは食い入るようにそれを見つめ、歓喜に打ち震えた。この調子で全ての氷を溶かせば――グレイが戻ってくる。
ふいに、炎が消えた。
「え…!?」
ナツが、膝を付いている。
額を氷に押し当てて、ぴくりとも動かない。
ハッピーはカラカラに渇いた喉に唾を飲み込んで、震える足をナツに向けた。