氷と炎と猫と涙






「どうするの…?」

翼でナツを運んで、ハッピーはその足元でぶるりと震えた。
洞窟内は冷え切っている。グレイを鎖す氷は以前見たときよりも厚くなっていて、もうほとんど中身が見えない。
それを見上げてナツが変身した。上着を脱ぐとハッピーに被せてくれる。
そして、はっきりきっぱり言い切った。

「溶かす」
「え?溶かすって、まさか」
「グレイを引っ張り出して、ぶん殴る。で、ルーシィを魔法界に帰らせる」
「え、えええ!?だから、無理だよ!グレイの魔力は大き過ぎて、ナツじゃ、」
「んなモンやってみねぇとわかんねぇだろ!」

言うなり、ぐぉ、と炎を拳に込めた。だむ、と踏み出した足を軸に腰を捻って、氷の壁に叩きつける。

ごっ!

「ぐぬぬぅう!!」
「な、ナツ!」

魔力の渦がナツを中心に氷壁に向かって展開されていく。技巧もコントロールさえも取っ払ったようなそれは、ハッピーが今まで見たことのないほどの圧倒的な火力だった。
ナツはこんなに成長していたのか。
急速に洞窟内が暖められて、汗ばむくらいに感じる。
しかし、それだけだった。

「うぉおおおおお!!」

氷の表面が幾許か濡れた程度で、形の変化は全く見られない。ハッピーは絶望的な気持ちで目を瞑った。

「ナツ…!ナツ、もう良いよ、止めて!」
「止めねぇ、よ!」
「ナツ!死んじゃうよ!」
「知ったことかよ!」

叫びを雄叫びに換えて、ナツが更に火力を上げた。攻撃的な炎が氷の壁を舐めていく。
止める方法がないか辺りを見回しても、洞窟内は氷しか見当たらない。
視界が揺らぐ。

「こんな、こと…っ…」

ハッピーは頬を伝う涙をそのままに、唇を噛み締めた。
このままの勢いで魔力を放出し続ければ、10分も経たずにナツは死亡してしまう。
土台、無理な話なのだ。
魔導士と魔法使いとの間には、越えられない壁がある。いくら素養があったとしても、魔力を使い始めてからの年月が全然違う。ナツがグレイに追いつくには――そんなことが可能なのかはわからないが――あと何十年もかかる。
とにかく、止めさせないと。
ハッピーは解決にならないとわかっていながら提案した。

「ナツ!ナツ…ッ!わかった!わかったから、一回止めて!オイラの契約を解除するから!」
「…契約?」

必死に足にしがみついたハッピーに、ナツが視線を向けて炎を消した。
良かった、声は届いていた。
胸を撫で下ろして、ハッピーは肩で息をするナツを見上げた。

「使い魔の契約を解除するよ。それで、ナツの魔力は完全に自由になるはず」
「はっ、はぁっ、なんか、はぁ、制限…あったのか?」
「制限って程じゃないけど…それでも少しはオイラに流れてきてるんだ」

ハッピーは使い魔になることで、ナツから魔力を供給させてもらっている。そして、ナツの魔力が空になったときのための予備タンクの役目も担っていた。契約を解除すれば、それはナツに戻ることになる。
しかし、同時にそれは空になったときの危険も伴う。出来ればこのまま、契約しておきたい、が。
ナツはもう止まらない。ハッピーに黙っていたのは、知られれば反対されるとわかっていたからだろう。それならば使い魔を辞めてから、誰か助けを呼ぼう。契約が解除されれば、ハッピーの行動も自由になる。ナツに危害を加える行動も取れるようになる。
殴ってでも、止めさせなければ。
どうしたら良いのかわからないまま、ハッピーは目の前の命を救うことを優先した。

「オイラ、ナツの使い魔を辞めます」

ナツの片眉がぴくり、と上がって、どこか傷付いたような色が表れた。
ああ、そうだ。ナツは自分から離れていかれることに敏感なんだった。
ハッピーがその表情に怯んだと同時に、ナツが口を開いた。

「…ああ」

ぱぁ、とハッピーの体が光に包まれた。






無茶がモットー。


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