送っていこう






「ルーシィ?お前またこんな時間に散歩かよ?」
「え…あ、うん…。…ナツも?」

ルーシィはナツの頭のてっぺんから爪先まで視線を滑らせ、警戒するように後ろ足に重心をずらした。
ナツはルーシィの目の前まで歩いていき、その瞳を覗きこむ。

「え?ちょ、ちょっと!?ち、近いっ!」
「ルーシィ、だよな?」
「へ?何?」

大きな濃い茶色の瞳が、ナツを映して外灯を揺らした。それを認めて、ナツはきょろきょろと辺りを見回す。

(魔導士、どこ行ったんだ?)
(ナツ、普通に考えたらルーシィが敵の魔導士だよ)
(んなわけねぇだろ、ルーシィだぞ)
「何?」

黙り込んだナツにルーシィが後ずさる。

「誰かに会わなかったか?」
「……」

ルーシィはナツを見上げてから、視線を外灯が照らし出す茂みに移した。考え込むように、一瞬目を閉じて、ナツに向き直る。

「気付かなかったわ」
「そうか」
(ナツ)
(ちげぇっての)

ナツは訴えかけるハッピーを黙らせるように抱え上げた。

「家どこだ?送ってく」
「え、いいよ。大丈夫」
「大丈夫じゃねぇっての。そんな格好でこんな時間にうろついてんなよ」

ノースリーブのカットソーにミニスカート。腕も足も剥き出しで、闇夜に白く浮いて見える。
掴んだ前腕はびっくりするほど細かった。
ルーシィはナツを見上げて、文句を言うでもなく付いて来る。ナツは歩調を緩めてルーシィに並んだ。
一部青いリボンで結ばれた金髪が、尻尾のように揺れている。

「明日一限、何だっけ?」
「んー?知らね」
「…あんた今日も授業出なかったわね。いつもそうなの?」
「んあ…やばくなったら出るよ」
「やばくならなかったら出ないってこと?ね、その猫、飼い猫?」
「おう、ハッピーっていうんだ」
(オイラ飼われてないよ)
「ハッピー…」

ルーシィがじっと手元を覗き込むので、ナツは片眉を上げた。

「なんだよ」
「ううん、別に」

ルーシィはハッピーの狭い額を撫でて、にこり、と笑った。その母性を湛えた笑みが思いがけなくて、ナツは慌てて視線を逸らす。

(何赤くなってんの、ナツ)
(なってねぇよ!)
(言っとくけど、ルーシィはオイラに笑いかけたんだからね)
(やかましい!)
「ねぇ、ナツ?」
「お、おう?」

ルーシィがナツを見上げて、少し迷ったように視線を巡らせる。

「ん…なんでもない」

諦めたように淡く微笑むその横顔が、ナツの胸を締め付けた。




「おい、ハッピー。さっきは随分と特等席にいたじゃねぇか」
「んー?オイラみたいな可愛い猫ちゃんの特権だね」

にやり、と口を歪めるハッピーに、ナツのこめかみに青筋が浮いた。
ルーシィはナツが止めるのも聞かず、ハッピーを胸に抱いたまま家まで帰った。大人しくて可愛いじゃない、ときょとんとするルーシィに、そいつは悪魔だ、と何度言ってやりたかったことか。いや、使い魔か。
ルーシィはナツの家から学校を挟んで同じくらいの距離に住んでいた。
オートロックのガラス扉をくぐる後姿を見送ってから、ナツは自分の家路をハッピーと並んで歩いていく。

「ルーシィ、魔導士だよ」
「ちげぇって」
「なんでそんな自信あんのさ」
「ルーシィだからだよ。あいつ悪い奴じゃねぇもん」
「ナツ、恋は盲目って言葉、知ってる?」
「だからそんなんじゃねぇって!」

言い返してから、ふと思い出す。

「ルーシィ、右手だけ手袋してたな」
「ああ、指先だけ出てるやつね。そういえば片方だけだったかも」

なんとなく引っかかって、ナツは後ろを振り返った。
ルーシィのマンションは、もう見えなかった。






初めて異性に送ってもらったとき、めちゃめちゃ感動した覚えがあります。なんか大人になったような、照れくさいような。


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