encounter at night






「んー…」
「どした?」

ナツは午後の授業をサボって屋上に居た。今日は午前中ずっと教室にいたので、この開放感が懐かしく感じられる。
青い空に雲が流れていくのを見ながら、寝転がるナツの腰当たりで唸るハッピーを見やった。

「どっかで見たような気がするんだよねぇ、あの娘」
「ルーシィのことか?」

起き上がって視線を合わせる。ハッピーがにやり、と笑った。

「なぁに、ナツ?あの娘のこと気になるの?」
「んな、そ、そんな訳ないだろうが!」
「しぃーっ!大声出さないでよ」

ナツの反応がわかっていたかのように、ハッピーが言う。むっとしながら、ナツは口を噤んだ。

「競争率高いよ」
「だから、そんなんじゃねぇっての」
「でも、気に入ったんでしょ?」

くるり、とナツの周りを回りながらハッピーが言う。先ほど買い与えた豆パンの袋が踏まれてかさりと音を立てた。
気に入ったと言えば、気に入っている。マフラーを似合っていると言ってくれたし、弁当のおかずもくれた。多少乱暴だが打てば響くようなリアクション。…表情豊かな大きな瞳。
ハッピーがナツの前まで来て、じっと覗き込む。

「恋も良いけど、魔法使いのことは絶対バレないようにしてよ。リサーナ、早くも疑ってるじゃない」
「恋なんかしてねぇよ」
「いい?くれぐれも他の人には言っちゃだめだからね。リサーナにも、ルーシィにも。わかった?」
「へいへい、わかったよ」

ナツは転がって、もう一度空を見上げた。
ルーシィのリボンは、もっと青かった。




「お、今日は3人か」

ハッピーの言う『まじかる☆ナツくん』になってから3日。慣れてきて目を瞑らずとも変身できるようになったナツは、夜の公園で待ち構えるように佇む3体の影を視界に捉えて姿を変えた。
ハッピーは茶虎のまま、ベンチの上に飛び乗る。

「よっ…と!」

ナツはぼっと足に火を灯すと一気に加速して2体を同時に攻撃範囲に入れる。

ぼっ!

口から炎を吐き出して敵を消滅させると、残りの1体を炎を纏ったままの足で蹴り飛ばした。

「終了!」

たむ、と着地すると同時に、蹴りを入れた幽兵が掻き消えた。

「んー…手応えねぇなぁ」

憮然として闇を見据えるナツを眺めて、ハッピーは感心する。
成長速度が著しい。元々喧嘩慣れしているからか。
まだ3日しか経っていないのに、その魔力をナツはほとんど自分の思う通りに使いこなしていた。
普通の人ならここまでひと月はかかる。
す、と元の服装に戻ったナツに、ハッピーは近寄った。

「お疲れ、ナツ」
「おー…てか、疲れもしねぇな。この公園以外に、出てこねぇの?」
「いるだろうけど、それは違う魔法使いの管轄だから」
「ふぅん?」

魔法界と人間界を繋ぐゲートが、この公園にあるのだとハッピーは言う。魔法界から送り込まれた幽兵はゲートの周りでしか活動できない。よって、この公園内で魔力を持った者に襲い掛かるのだと言う。

「結構倒したし、そろそろ敵の魔導士が出てくるかもね」
「強ぇのか?」
「まぁ、幽兵よりは、ずっと」

茶虎のハッピーに目を落として、ふとナツは疑問を口にした。

「そういえばお前、なんでいつも青くなんねぇんだ?」
「敵の目に触れるからだよ。ナツはマフラーがあるから見つかるけど、オイラはこの格好のときは魔力が抑えられるんだ。普通の猫にしか見えないんだよ」
「へー…じゃあ青いときは囮に出来る、と」

ナツのにやりとした表情に、ハッピーは半眼で応えた。
と、公園の噴水方向で一瞬、光の柱のようなものが空に走った。

「なんだ?」
「ナツ…誰かがゲートをくぐったみたい…」

緊張した面持ちで、ハッピーが言う。

「ゲートを?」
「…様子を見よう。幽兵なら襲い掛かってくるだろうし。魔導士なら…幽兵と違ってすぐに魔法の鍵を見分けられるわけじゃない。黙ってれば、こっちが魔法使いだってバレないよ」
「なんだそれ?逃げるってことか?」
「相手がどんな奴が見極めようって言ってんの。いいからこっからはテレパシーだよ」
(いいね?)
(ちぇ、わかったよ)

カツカツ、と噴水へ続く道から足音が聞こえた。ナツとハッピーは目配せして、その方向へ歩き出す。
外灯が、相手の姿を浮かび上がらせた。

「…あれ?ナツ?」

歩いてきたのは昼間隣の席で笑っていたルーシィだった。






夜中に知り合いに会うってそれだけでどきどきしますよね。


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