猫、カツカレーを食らう






「君を、魔法使いにしに来たんだ」

そう言って青い猫は、ナツに微笑みかけた。ナツは大きく頷く。

「そういえば、今日屋上で頭打ったな」
「え、ちょっと」
「うん、頭のダメージってのは素人が判断しちゃ駄目だな。ちゃんと病院行かねぇと」
「あの、ナツ?」
「あー、でもやっぱ面倒くせぇな。この幻を排除してしまえばいいか」
「ちょ、ちょっと待って!話だけでも聞いてよ!」

掴み上げた青い猫が焦って声を上げた。ナツは半眼で見下ろす。

「断る」
「ええええー!?そんな横暴な!」
「横暴じゃねぇだろ!どこの世界にそんな青い喋る猫がいんだよ!お前の存在自体が横暴じゃねぇか!」
「魔法界だよ!オイラ、魔法界から来たんだ!」

その声があまりに必死なので、ナツは自分が弱い者いじめをしたような気分になった。猫をベッドに落とすと、もう一度椅子に座りなおす。

「一応、話だけ聞いてやるよ。ハッパ」
「ハッピー!」




ハッピーの話に寄ると、魔法界なるものがあるらしい。

「人間界とは次元の異なる世界だし、認知は出来ないけど、確かにあるんだよ。で、今現在魔法界では抗争が起きていて、それが人間界に飛び火しているんだ。このままじゃあ人間にも危害が及びかねないんだよ」
「わかるようなわかんないような」
「で、オイラ達の所属するチーム『妖精の尻尾』では、人間界で魔法の素質のある人間を集めて魔法使いに育てているんだ」
「ん?人間に危害を及ばないようにするために人間を魔法使いにすんのか?」
「魔法の素質があるっていうことは、魔力があるってことなんだ。魔法界の住人――魔導士って言うんだけど、彼らは人間界では魔力を補充できないから、定期的に魔法界に戻るか、人間から魔力を吸い取って活動時間を延ばすんだよ。魔法使いになってしまえば、対抗する術だってあるでしょ?」
「んんん?」
「ナツが狙われるから、自分の身は自分で守りなさいってこと」
「おお、わかった!」
「あ、そう…。で、魔法使いにする代わりに、今後『妖精の尻尾』の為に少しだけ手伝いをしてもらいたいんだ」
「ああ?やだよ」
「…ナツ、わがままって言われない?」

ハッピーがうんざりとした調子で、言葉を零した。肩と耳が垂れて、なんとも可哀想な感じではある。

「別に魔法なんて要らねぇよ。オレ強ぇもん」
「いや、人間が素手でなんとか出来る次元じゃないって」
「あー、オレ武器使うのは苦手なんだよなあ」
「いや、そうじゃなくて」

ハッピーが言いかけたとき、ポケットの携帯が震えた。時計を見ると、夕飯の時間。ナツは立ち上がって部屋の扉に手をかけた。

「オレ晩飯の時間だから」
「オイラお魚が良いな」
「……」

振り返ると、ハッピーはにこにことナツを見上げていた。

「お前、飯食うの?」
「当たり前だよ?どうして?」

ナツはしばし思案する。食わせなくてはいけない理由はない。ない、が。

「せめて青くなきゃ、連れて行けるけどな」

目の前でハッピーがにやり、と笑った。




「ナツ、おかわりあるからね」

リサーナが上機嫌でおたまを振るう。ナツはその足元でカレーを舐める茶虎の猫を半眼で見やってから、おう、と頷いた。顔中に食べたいと書いてナツを見るハッピーに、猫にたまねぎは駄目じゃないか、と言うリサーナを説き伏せた。喜んで食べているし、この猫は普通の猫じゃないのだから、大丈夫なんだろう。
リサーナは大の猫好きである。ナツが連れてきた猫にビックリはしたものの、目を細めて可愛いを連呼していた。リサーナの兄のエルフマンもにこにことハッピーを撫でている。姉のミラジェーンはまだ帰っていなかった。このところ生徒会で忙しそうに立ち回っているのを学校の廊下で何度か目撃している。
ナツはトンカツにカレーを絡めて、さっきの話をもう一度考えてみる。要するにでかい喧嘩に参加しろ、ということだ。そこに魔法とやらが関わっているだけで。
帰ったら、この猫の言うことに少し乗ってみようか。
先ほどそれこそ魔法のように一瞬で毛並みを変化させたハッピーに、魔法使いに対する興味が出てきた。






猫にたまねぎは駄目です。チョコレートも駄目です。


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