スリーピース






「今度は、二人でやろうぜ」

滝田はそう言って飲みかけのペットボトルの水を俺に差し出してきた。俺は少し目を瞠ってその水を受け取った。

「ふたりで、って…?」

「サンピーじゃなくて俺と、お前だけで」

そう言って俺の肩を指で押す滝田
別に、いいけど…なんつうか、アイツに悪い気がするし…俺と滝田だけの秘密みたいでなんかキモイ。まあでも、

「ん、いいよ。」

大方クチでヤられる時が不満なんだろうけど。なんたって元ヤリチンだからな…滝田は、性欲があまり余ってて当たり前なんだろう。

「なんだよ、その顔」

そう言って片側の頬を引っ張られる。
いたた…

「はなせよ」

「…やっぱブサイクだな」

「うっせ。ほっとけ」


「なにやってんの」

お風呂から出たんだろう後ろからバンバの声。少し不機嫌そうに聞こえる声に俺は首を傾げた。なんかあったのか?

「もしかしてまた水しか出なかったのか?」

「は?」

「え、…あ、やなんでも…。」

冗談交じりにそう聞けば低い声を出してそう答えたバンバ。ちょっとお怒りモードらしいのでそっとしておこう…滝田は少し笑いながら俺たちをみていた。

「滝田、早く帰れば。もうすぐ寮長くるよ」

バンバがそう滝田に言えば滝田はチラリと時計を見てからハア、と息を吐いた。

「アイツとは気が合わねえんだよな」

「……。」

そう同室のヤツのことを言う滝田。
…気が合ってたらどうせセックスするつもりだったんだろうが
俺はそう思ったが黙っておいた。
確か前に同室は眼鏡だとか言ってた気がする…ガリ勉くんだとかか?

「…バンバが送ってやれよな」

以前ここから帰るときに滝田はなんというか、積極的な男の子に襲い掛かられたことがあった。まあでもその時は偶然寮長さんが通りかかって助けてくれたらしいが。
当然俺たちはお叱りを食らったのだけれども…、

「イヤに決まってんじゃん。ていうか送る意味」

コイツなら何されても平気だろ、
そう言ってフン、と鼻を鳴らしたバンバに俺もハアと息を吐いた。
滝田はどうだかわからないがバンバは滝田にセックス中にも意地悪くしたりしているのを何度も見かける…子供みたいだ。

「んじゃ俺帰るわ。長谷川はちゃんと身体暖かくして寝ろよ」

それだけ言って滝田は財布と携帯を持って立ち上がった。
俺は重たい身体を持ち上げながらヨタヨタと玄関に向かった。後ろからバンバがついてくる足音

「じゃ、おやすみ」

おでこにポツンとキスがひとつ落ちた。
なんだこのお姫様扱い…オンナならイチコロだな。オンナならば、だが

「これは俺もした方がいいのか」

そう滝田に聞けば滝田は少し目を見開いて笑った。おお、情事後の色気がヤバイぞ…

「いや。俺がしたい時にするだけだから」

何も求めてねえよ、そう言った。
俺はそうか、と呟いてバンバに目をやった。

「…じゃあな、」

「おう」

俺も小さく手を振ると滝田も振りかえしてくれた。滝田の背中が小さくなって行くのを確認してからパタリ、とドアを閉めて鍵を閉めた。

「、わ…」

後ろを振り返るとドアに押し付けられるようにバンバが立ちはだかっていた。
トン、と音がして顔の横にバンバの手がおかれて顔の距離を詰められる。

されるな、と思った瞬間にはもうくちびるとくちびるとがくっついていて反応が遅れた。

「…ば、…ん。…バンバっ」

バンバの顔を少し押しやるとやっと離れた。
さっきまで三人でイチャイチャしていたくせにまた盛りやがって…。

「今日さ、滝田と盛り上がってたでしょう」

「えっ」

「三人でヤってる時、さ」

「…ああ…。」

なんだ、俺はてっきりバンバが風呂に入ってる時のことかと思った…。

「!…ふうん。否定しないんだね」

「あ、いやちがくて…そんなことないって、」

「…もういい。」

バタン、と音をたてて自室に入って行ったバンバに俺は頭を掻いた。
別に恋人同士でもあるまいし…。

「…もう寝よう。」

どうせバンバに何言ったって今は話を聞かないだろうし、かと言って俺がこの部屋を出て行ったらまた滝田のところだろう、とイチャモンつけられるし…。
何回目だろうか、こんなこと。
バンバは良いヤツだし、滝田だって…でもそれは友達として、だ。多分この関係は世間一般で言うとセフレ、っていう関係なんじゃないかとは薄々気付いていたが…こんなに面倒な事だったのか。となってみてわかった。

多分バンバはその関係を把握していないんだろう、きっと。俺だって知ったような口を聞いてるが未だ童貞だし。…まあ非処女だけども。
滝田は回数が半端なく多いだけあってか多分慣れているんだろう。ある程度の関係を保ってくれているし
…バンバだけじゃなくて俺も子どもなのかも。

もしくは、
バンバが俺に嫉妬してるか、だな。

今までの俺ならば前者だろうと目星をつけていたに違いないが、最近なんだか違うような気がしてきた。
それは多分バンバからの俺への態度と言動。滝田との距離感。
あれはきっと滝田に恋をしているんだ

だからきっとこの関係にムカついて、イライラしている。俺と滝田がイチャイチャしていただなんて、いいがかりだ。ただそう言う感情を滝田に持つようになって俺が邪魔になったんだろうな
、と俺は推測している。きっと当たりだろう

だからさっき滝田に二人でって言われた時だってちょっと戸惑った。
…でもまあ、本当言うとちょっとだけバンバに見せつけてみたいって言うか…なんて言うか、少しだけ意地悪してみたいって言う子どもじみた思いがあるっちゃあるんだ。だからちょっと、ちょっとだけ…味見くらいさせてくれたっていいよな?
バンバが食べようとしている好物を、バンバがよそ見をしているうちに味見する…そんな感じ。そう考えてちょっと楽しくて俺はクスクスと笑った。




「…ん、…も、ダメ…」


「なんだよ、まだイケるだろ…?」

「もう、ほんと…ムリ…ッ」

俺はふう、と息を吐いて目の前の皿たちを見つめた。

「なにこのケーキバイキング…地獄だろ」

「ああ、そうだな」

でももっと食べろよ。じゃなきゃ元すら取れないぞ
そう言ってフォークにのせたチョコケーキを俺に向けてくる滝田。

「も、ムリだって…うぇ」

甘い匂いで噎せ返りそうになる。
滝田はもう何個も何個もケーキをたべているのに顔色一つ変えずにもう一個、と食べまくる。俺はもう本当に限界だ…。死ぬ、

なんで俺たちがこんなとこに来ているかというと、バンバのためだ。
バンバが集めている゛まぜまぜあにまるず ゛というよくわからないアニメのリスねこさんというキャラクターの巨大ぬいぐるみをゲットするためだ。
ケーキバイキングで元を取るまで食べれたらぬいぐるみプレゼント、ということらしいが…どこまで食べたら元を取れるのか…。

「萬場に喜んで貰うんだろ?」

「…なんとか誕生日までには食べ終わりたい…。」

もうすぐバンバの誕生日なのだ。だからバンバには秘密でこのケーキバイキングに来た、のだがどうだろう、まだまだ道のりは長そうだ…。

「俺は全然イケるけどな」

またもぐもぐとケーキを頬ばる滝田に自分でもないのに何故か吐き気が出てくる。
滝田の胃袋は壊れているな…。



「ただいまー」

パチリ、と電気をつける。
なんだ、誰もいないのか…?

「バンバー…?」

なんだ、バンバも遊びに行ってるのか
…でもそんなこと言ってたっけ…?

「ばん…っ!?」

後ろからニュルンと腕が伸びてきて俺の口を塞いだ。
誰だ、!

「んぐう!んんんん!!」

俺は驚いて慌てて拘束を解こうとしたが全然ビクともしない。なんで、こんなこと。
誰だ…!

「…長谷川、おかえり」

「ん!?…んんん、」

バンバ!
そうだよな…ここは俺とバンバの寮部屋だ…俺なにやってんだし、恥ずかしい…。

「んんん」

「ねえ、長谷川。今日は誰とどこいってたの」

「んーん!」

この手を離さなきゃ話せないだろうが!
そう思ったがバンバは手を離す気配は全く無い。
本当にバンバはかまってちゃんだなぁ…

「…知ってるよ。滝田、でしょう?」

「…!」

思惑ビクリ、と肩が跳ね上がった。
もしかしてバレてたりしないよな…?
あのあとちゃんと、リスねこさんをゲットした俺は滝田の部屋にそのぬいぐるみを持って行って貰った。誕生日まで隠しとくために、
まさか途中でそれを見つけた、とか!?

「…ふうん、そう…へえ、」

「……」

な、なんだよ…
なんだかバンバは怒っているような、拗ねているような声を出す。
あ、そっか…俺が滝田とふたりで遊びに行ったからか…しまった…。

「今なら、まだ間に合うよ」

え、と思った瞬間に口を塞いだ腕が離れて行った。後ろを振り向けばバンバが俯いて立っていた。
あ、えっと…

「…その、すまん…悪気はなかったし、その…バンバの気持ちもわかったから…「本当に!?」…え」

俺がそう言えば急にバッと顔を上げたバンバ。

「なら、いいや!全部許してやる!」

それって俺の気持ちを受け入れた、ってことだよな?
そう言われて肩をがっしりと掴まれた。

「お、おう…?」

「っ!」

ぎゅううう…と抱き殺されるかと思うくらいに強く抱き締められて息が詰まった。
なんだこの喜びよう…あ、そっか、協力して欲しいのか…。

…ん?でもバンバと滝田って…どっちも入れる方だよな…?…いやいや、こういう下世話な考えはやめよう。純粋に愛し合っていればそう言う行為は要らないよな、うん。


「おはよう」

朝起きるとキラキラした笑顔でバンバの顔が大画面に映った。お、おう…眩しいな…。

「…おはよ、」

少しかすれた声を返せばもうご飯できてるよ、と返される。

「ん、分かった…」

ちゅ、と頬に柔い感触。
頬をさすればバンバが恥ずかしそうにはにかんだ。

「あ、…え?」

「可愛いね、寝顔」

可愛すぎて、いっぱいキスしちゃった。
そう言ったバンバに俺は口をあんぐり開けた。

「ああ、…そう…」

俺はそれしか言えずにいたがバンバは随分ご機嫌らしくてなにも言っては来なかった。
なんでだ、急に…。

その日だけだろうと思ったバンバの不思議な行動は徐々に悪化していった。

「長谷川、」

後ろから声を掛けられて振り向けば滝田が立っていた。

「滝田っ!」

思わず滝田に抱きつけば滝田はおお、と言って抱きとめてくれた。

「よかったあ…滝田、俺、」

俺は事の次第を話そうと滝田の顔を見上げれば滝田は何処か遠くを見ていて、

「滝田…?」

「…長谷川。」

「…!」

滝田に抱きついたまま後ろを振り返ればバンバが物凄い形相をして俺を見ていた。
やばい…!

「滝田っ、逃げるぞ!」

俺は滝田の手を握ってそのまま駆け出した。
滝田は黙って俺のあとについて来た。

なんでこうなったのかと言うと、要約して言えばバンバが怖くなったからだ。
バンバはあの日からを境にずっと俺に可愛いと囁き続けて来て、しかもスキンシップも激しくなってきた。
それならまだ良かったのだが、今度は束縛が激しくなって来たんだ。
それで今日、バンバへの誕生日プレゼントだったリスねこさんのぬいぐるみを取った話をすればさっき見たような物凄い形相になってしまった。

「はぁっ!ハアっ」

もうダメだ、死ぬ…っ
でも、捕まったら絶対ヤバイ気がする…、

「…っ…!」

グン、と腕を引っ張られて何処かへ連れ込まれる。

「たき…っ!」

口を塞いがれて静かに、と耳元で小声で言われてハッとして俺は口を噤んだ。

パタパタと足音が響いていて、俺の心臓が悲鳴をあげていた。ドクドクと血が流れる音、自分の息、後ろにいる滝田の気配。

「クソっ!」

ガン、とドアを蹴られてビクンと身体が反応する。それを滝田がキツく抱き締めて来た。

またパタパタと音がして去って行ったようだった。

「…もういいかな?」

「…ああ、そうだな」

そう答えられて俺ははあ、とため息を吐いた。もう、なんでこんな事に…。
実は今はお昼休み、
バンバの機嫌が悪くなったのは朝だった。
いつも一緒に学校へ向かう俺とバンバは今日も一緒に行った。いつも何気ない話をして登校するので今日も何気ない話をしたつもりだった、俺は。
でもバンバはその誕生日プレゼントの経緯を知ると先程の物凄い形相になって俺の身体を下駄箱に押し付けて来た。何かいろいろ叫ばれたかと思えば何故かキスして来て、そこで生徒がその下駄箱に来たんだ。
俺はドンとバンバの身体を押して急いで教室に駆けた。
それからずっと毎時間バンバを避けまくって滝田に相談しに来たのだがどうやらバンバはそれも察知していたのか、あの通りだ。
しかもやっぱり怒っている。物凄く。

「滝田…」

「…俺のとこに戻って来るなんて随分嬉しい事してくれるな」

「え?」

「萬場が長谷川は自分のとこに来た、だなんてほざいてたからてっきり俺はフられたのかと思ったよ」

「あ、え…?ああ、いや違うよ。今でも好きだよ。だからバンバは俺に怒ってるんだ…」

本当に困ったものだ。と言うか滝田はバンバの想いに気付いてたのか…、てか嬉しいって…両思い…?

「はは、そうなのか。悪い事したな、萬場には。」

ぎゅ、と抱き寄せられて髪の毛にキスされる。

「ハ?…滝田、なにして、」

「…みーつけたー…」

「バンっ!?」

「ねえ滝田、本当にさぁ邪魔なんだよお前。本当にお邪魔虫だな。もうお前死ねよ」

「え、え?バンバ…?」

「それはお互い様ってもんじゃないか?大体、長谷川は萬場なんて好きじゃなさそうだぞ?」

「は?何言っちゃってるわけ?長谷川が俺を好きじゃない?んなのあり得るわけねぇだろうが。このテイノー野郎が。」

「ちょ、ちょっと待てよ!二人とも何言ってんだよ!」

「長谷川、長谷川は俺の事ダイッスキだよね?」

「違うよな。長谷川、萬場に本当の事、言ってあげな」

「え、…え…なんで、なに…」

二人とも、どうしたの。
後ろに後退りをすればカタン、と音を立てて本棚にぶつかった。そうだ、ここは資料室だ。四階の、一番奥まったとこにある。
…誰も、来ないようなところ。

「や、やめようぜ、ケンカなんて…また三人でやればいいじゃんか、な…?」

俺は半笑を浮かべながらまた後退りをした。
すると二人ともがジリジリと寄って来てもう俺は助からないんじゃないかと思った。

なんでこんな事に

「なあ、どっちが好きか、言ってやれ。長谷川」

「長谷川、俺は分かってるからな。落ち着け」

笑顔で近づいてくる二人に俺はどうしていいものかと必死に頭をぐるぐるさせた。

「どっちも、嫌だって言ったら…?」

そう言うと二人はクスクスと笑って言った。

あり得るわけないだろ?

、二人揃った声は俺の頭の中で絶大な威力をもって響いた。
多分もう、ダメなんだと思う。


「俺は、」


そう言うと二人は顔を見合わせてまたクスクスと笑った。どうやら二人とも機嫌が良いようだった。



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