きみの虜(おまけ)





「はい、くち開けて?」

澪くんがそう言ってスプーンを向けてくる。
俺は澪くんがいる方とは違う方向を確認する。

「……」

「…ヨシくん、俺のこと見て。冷めちゃうよ」

「……ん、」

腕を組んだまま、俺と澪くんを監視する様にこっちを見ていた。

「美味しいよね」

「う、うん…」

チーズがトロトロしてるグラタンをまた掬ってふーふーと冷ましてから口元に持ってきてくれる澪くんに、俺は素直に口を開いた。


あれからトントン拍子にあのアパートを出てからこのマンションに来て、会社も行かなくていいと言われてずっとここにいる。
もう本当にずっとだ、気が滅入ってしまいそう。

…でも、澪くんとずっと一緒にいられて嬉しい…だけど、


「道田さん」

びくりと肩が上がってしまい、恐る恐る振り返った。

「…俺の手からも食べてくれますよね」

「あ、ちょっと。」

「………」

「ほら、口開けて」

澪くんから取り上げたスプーンで澪くんと同じ様にグラタンを掬って冷ましてから俺の口元に運んでくる。

「も、もうお腹いっぱい…」

「嘘。まだ食べたいって顔してただろ」

「もういい…っ」

顔を背けるが顎をガッと掴まれて無理矢理前に向けられる。

「はやく口開けてくださいよ、道田さん。」

「ぅ、うぅ…」

「……」

ついに諦めてくれたのかパッと手を離されて、金堂くんは離れていった。

「俺の手からしかヨシくんは食べたくないんだよね?」

「…ん」

金堂くんが諦めたそれをまた澪くんがやってくるが、俺はまた素直に口を開けた。

「…道田さん、」

ちょっと気になって視線を金堂くんに向けたが、俺はまたすぐに視線を逸らした。

…なんであんな、傷付いた顔…俺の方がそんな気持ちなのに。

「はい、くち開けて?」


「おはよう…」

「あ、おはようヨシくん。」

「澪くん、…もうここから出て行こうよ」

そう言うと澪くんは読んでいた雑誌をパタリと閉じた。

「またそんなこと言うの。ヨシくん」

「…だって、こんなの…」

澪くんがソファから立ち上がってこちらに歩いてくる。そしてそのままの勢いで俺の身体を抱き締めた。

「…ヨシくんは俺のことを置いて行く気なんだ?」

「み、澪くんも一緒だよ!」

「でも俺はここから出たくないって言ったら?」

抱き着いたまま俺の耳元でそう囁く様に言う澪くん。

「……俺もここに、」

「それなら、まだここにいよう。
俺もヨシくんと離れ離れにはなりたくないんだ、」

「…うん。」

何回か澪くんにここから出て行こうって言ってるけど…澪くんは首を縦には振らない。
多分、ここの…金堂くんとの暮らしが気に入ったんだ…。
だって、部屋は凄い広いし綺麗だし…ご飯だって俺の作るものと違って美味しい、…雑誌とか、漫画とかあるみたいだし…。

「どうしたの?ヨシくん、」

思わず強い力で抱き締め返した俺にぴくりと澪くんの身体が揺れた。

「お、俺のこと捨てないで…澪くん…っ」

「……うん、大丈夫だよ。
ヨシくんが俺のことを捨てなければずっと一緒にいられるよ。」

俺は、ヨシくんを捨てないから
そう言って強い力で抱き締めてくれる澪くんに俺は緩く頭を擦り付けた。


「ただいま」

「おかえりなさい。」

「……」

俺はソファに座っている澪くんの足に乗せていた頭を上げて、恐る恐る声のしたほうを見た。

「…ただいま、」

「!、…お、かえり…」

ソファの影から窺い見ようとしていた俺を見越していたのか金堂くんはソファの側に立っていた。

「道田さん、俺の事も癒して下さいよ」

「………」

ちょっと困ってチラリと澪くんを見ると、雑誌から目を離して俺を見ていた。
み、澪くん助けて…っ!

「…ヨシくん、一緒にお風呂でも入ってあげれば?」

「えっ…!!」

「あ、それ良いっすね〜道田さんお風呂入りましょっか」

ニコニコとネクタイを緩める金堂くんに急に心臓がドキドキと大きな音を立て始める。

「ヨシくん、金堂さんの背中流してあげて?」

澪くんは首をちょこんと斜めにしてそう言った。
澪くんの頼みを俺が断れる訳は無かった…。

「ぅ、…うん。」

「!…道田さんの気が変わらないうちに行きましょっか」

「……っ」

金堂くんを窺い見ると、ちょっと目が怖かった。
そのままサッと手首を掴まれて足早にお風呂場に向かう。

「…さ、道田さん服脱ぎましょう。
恥ずかしいなら俺が脱がしてあげますから」

「あ、…そんな…」

そっか、俺もお風呂に入るってことは俺も裸になるって事なのか…。

「俺、自分で脱ぐよっ」

「…っはい、お願いします、」

ちょっと苦しそうにそう言う金堂くん。
笑い堪えてたりするのかな…俺の身体貧相だから笑われてるんだ。

俺はちょっとムッとしながら着ていた服を脱いでいく。

「あー…ちょっと待ってください道田さん、あーマジか…」

「………」

しきりにアーアー言う金堂くんに俺は首を傾げた。
あとパンツ一枚なのに…。

「ちょっと先に入って頭と身体洗ってて下さい。
俺ちょっと、…喉乾いちゃって。」

「…分かった」

「上がっちゃ駄目ですからねー」

そう行って脱衣場から出ていく金堂くんの背中を見送った後、俺はさっさとパンツを脱いでお風呂場に入った。


「…入りますよ、」

身体を洗っていると後ろからそう声が聞こえて振り向いた。
……で、でかい……。

「…ちょっと、恥ずいんであんまり見ないで下さいね。」

「あ、ご、ごめん」

「……俺が洗ってあげましょーか。」

「あとは流すだけだから、」

そう言ったがサッと後ろからスポンジを取られてしまった。

「あぅ…」

ひたりとちょっと冷たい指先が首に触れて、本能的な怖さを感じた。人って喉が急所って言うしな…

「脇の下もちゃんと洗いました?じゃあここも?」

俺は頷いて返していくが、金堂くんのここも?ここも?攻撃は止まらない。足の指先までスポンジで擦られてしまった。

「ここも、ちゃんと洗いました?」

「うひゃ」

突然金堂くんは俺の柔らかいままのものを、やんわりと手で握った。

「…ねぇ、洗いました?」

「、ぅ、あらったっ、洗った…!」

「ん、えらいですね。流しますね。」

ふにふにと少し揉まれて、金堂くんはぱっと手を離した。
び、ビックリした…

「じゃあ頭洗うまで温まっていて下さい」

「うん…」

お湯が張ってある風呂に爪先をちょこんと入れる。
ちょうど良さそう…。

「…ふぅ…」

ポカポカと暖かい、良い温度だ。
最初に澪くんとお風呂に入った時はとてもお湯が熱くてビックリしたのを覚えている。

そういえば前に会社で、低体温だから熱すぎるくらいが丁度良い…みたいに言ってたな。

「道田さん、終わりましたよ」

「んー…」

ちょっとウトウトしてしまっていたみたいで、肩を揺さぶられて遠のいていた意識が戻って来た。

「眠いならもう出ますか?」

「、いや、」

少し眠い目を擦ると金堂くんが少し悲しそうにしているように見えた。

「背中流すね」

俺はいそいそと湯船から身体を起こした。
金堂くんは少し嬉しそうにはにかむとバスチェアに座った。

「背中から洗うね、痛かったら言って。」

金堂くんは無言で頷いた、俺はそれを見てから少しずつ背中に力を入れた。

次に首筋、肩、腕…お腹も腕を回して洗った。

「…ここまで…でいい?」

流石に下半身は何となく…駄目そうってか…俺なら自分で洗いたいかもだし。

「下も洗って下さいよ」

そう言ってスポンジを持っている俺の腕を引かれて、そこまで持っていかれる。

「…え…」

「嫌ですか…?」

またあの、少し悲しそうな顔に俺は何も言えなくなった。

「…やるよ。」

「お願いします。」

…そう言えば、最初に会った時の金堂くんは別に小言とか言ってくる子じゃ無かったんだよな…。
だから最初は俺が悪いんだって思ってたんだ、けど毎回言われるからそんなの思わなくなって…。

「…道田さん、何考えてるんすか」

突然腕を止められて意識が戻るみたいにハッとした。

「介護じゃないんだからちゃんと俺だけ思ってて下さいよ」

「ん…」

止められた腕を引っ張られて、泡がついた金堂くんの背中に頬を付けてしまった。

「こうやって、肌と肌で触れ合いながら洗って貰えたら嬉しいな。」

そう言ってスポンジを取られてどこかに投げられてしまった。
頬に泡をつけながら唖然としている俺に、どこか興奮したように早く、と耳打ちしてくる金堂くん。

「ぁ…」

金堂くんの眼から少し視線をずらすと見えてしまったそれ。
さっきので十分大きかったそれは腫れ上がって、別の生き物みたいに見えた。

「…なにが見えてるんですか」

金堂くんは俺の視線の先を見たようで少しびっくりしたようにそれを見てからまた前を向いた。

「あ…、えっと、」

「…別に、生理現象ですから」

そう言った金堂くんの耳は後ろから見てもすごく赤かった。それはお風呂だから体温が上がっているのかそれとも…。


「ただいま、」

澪くんは朝のようにソファで雑誌を読んでいた。
邪魔にならないように膝に頭をちょこんとだけ乗っけてテレビに目を向ける。

「……」

「ぇ、どうしたの…」

「髪、拭いてあげます。」

腕を痛くない程度に少し引っ張られて起き上がるとそう言われた。

「ん、別に大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃなくて拭くんです。…床に垂れるんで」

「…ちょっと、…」

澪くんは一瞬雑誌から目を離してそう言いつつ金堂くんを見た。
金堂くんを見るとなんだか金堂くんはばつの悪そうなむすっとした顔をしていた。

「わ、わかった、自分で拭くよ!」

「………」

「っ…じゃあ俺が拭いてあげるよ」

そう言って澪くんがなんだか笑いをこらえたようにそう言って俺の肩に巻いていたタオルを取った。

「………」

金堂くんはそれを見るとくるりと後ろを振り返って行ってしまった。
俺が拭くってわかって満足したのかな、…まあでもおかげで澪くんに拭いてもらえるし、ラッキーかも。

「そんなに嬉しそうな顔しないで。また妬かれちゃうよ」

「?焼かれる?」

「ううん、なんでもないよ
ひとりごと。」

俺は首を傾げながらもクドイ、と言われないように一応頷いた。
やっぱり澪くんの笑顔は天使だなあ…今日は一緒にお風呂入れなかったけど、こうやってお風呂上りに澪くんに出迎えてもらうのもいいな…。

俺はそのあと金堂くんと二人で澪くんのお風呂上りを待つという初めての体験をした。
ずっと澪くんに付きっきりで澪くんがトイレ行くときくらいしか離れてなかったから、時間が凄く長く感じたし、金堂くんはずっとうろうろしていたから尚更だった…。



日曜日、いつも金堂くんがずっと家にいる日だ。
もうここに来てから一か月も経ったから、金堂くんの予定やらは大体が把握できるようになった。

「今日は俺が作るから、ふたりともゆっくりしててね」

「別に無理して作らなくてもいいんですよ」

金堂くんはパソコンでなにか作業をしていて、疲れたような顔でそう返事を返した。

「俺なにも出来ないからさ、覚えたいなと思って…。」

「………そうですか」

澪くんを見るといつも通り雑誌を見ながらソファにうずくまっている。

「ケガしないように、気を付けてね」

「うん!」

少し前に澪くんと二人の昼時に俺がお昼ご飯を作ったんだ。
そしたら包丁で左手を切ってしまって、意外と血が止まらないものだから澪くんが心配して金堂くんに電話を掛けたんだ。
そしたら金堂くんが早退して帰って来ちゃって…そのころにはまあまあ血は止まってたんだけど…金堂くんが医者を呼ぶって言いだして…。

とりあえずとても二人には迷惑をかけてしまった…。もう二度と手は切るまい…。
俺はそう意気込んで包丁を手にした。
今日はちょっと頑張って、具がいろいろ入ったパスタを作ろうと思っている。

なんだかよくできそうな気がするぞ…!


「…なんか、おいしそうな匂いしますね」

「わっ!」

鍋を覗き込んでいると後ろからそんな声。
とても真剣だったので大きい声がでてしまった…。

「あ、パスタだよ!ごめんね、大きい声出して」

金堂くんは俺の姿を上から下まで見たかと思うとため息をついて、目頭をぎゅっとつまんだ。

「…?」

なんか、俺またしでかしちゃったのかな…。
最近、会社でいた時みたいに小言を言われなくなったような気がしてた、けど…。

「なんすか、その恰好…」

「あ、…エプロン、澪くんが買ってくれて…。」

「…澪、ですか。」

澪くんは金堂くんにお小遣いをもらっているみたいで、よく通販を使っているのをよく見る。そこでエプロンも買ってくれたみたいで、お揃いのをプレゼントしてくれた。

「あ、でもそっか…金堂くんが買ってくれた、ようなものなのかな…。
あ、え……わわっ……」

腰をグググと引き寄せられて、金堂くんに抱き込められるような体勢になってしまった。

「えっちょっと、まって…ッ」

ズボンのボタンが外されたみたいで、そのままジッパーも下げられた。
どういうことかわからなくて思わず叫ぶようにそう言った俺に金堂くんは返事もしない。

「こ、金堂くんっ…あぶないよ…!」

火は少し遠いけど、ここはキッチンだし万が一もあり得る。

「…ぁ、あ…なにっ…?」

無遠慮に下着のなかに手が侵入してきて、俺の…そこを優しく包んだ。
俺は何が何だかわからなくて目を白黒させるが、金堂くんが何を考えているのかわからない。

「…ん、や、やめて…」

カチリと音が聞こえたがなんの音かわからない、俺は視線を揺らした。

「よそ見するなよ…これ、噛んでてください」

「ン、ん」

エプロンの裾を口に含まされる。俺は抵抗も出来ず、する気もなくて従った。

「ん!?ん、…ぅう」

下着から出されたそれがキッチンの少し温まった空気にさらされた。
おもわず力んでしまってつま先がキュウと縮こまる。

「どうかしたの?」

澪くんの声が聞こえて思わず身体が反応する。
耳元で金堂くんがすこし笑った。

「ほら、答えて。」

金堂くんが小さい声で耳打ちしてきた。
俺は唇をすこし噛みしめて、震えそうな声をぐっととどめた。

「な、なんでもないよ!ちょっと塩入れすぎたっ…だけ…」

「そっか、すこししょっぱい方がおいしいかもね」

「んん、だね…。」

にゅくにゅくとやわらかいそれをゆっくりした動きで擦り始めた金堂くんに思わず息が弾んで声が上ずってしまった。
き、気付かれてないよね…。

あれ以来、たまに金堂くんとお風呂に入るようになったが…それと同時に金堂くんがこうやって悪戯してくるようになった。

「…あれ、ちょっと先っぽが濡れてきました?」

ぴとり、とそこに指先を当てられて腰が引けてしまった俺にまた金堂くんは笑った。

「ふ、んん…」

ふるふると首を横に振るが金堂くんは止めるどころか、その濡れた先をくるくると円を描くように刺激してくる。
俺はビクビクと腰が揺れてしまって、声が漏れそうになる。

「ちゃんとエプロン噛まないと声が漏れちゃいますよ」

「…んん…」

まあ、俺はそれでもいいですけど。
そう言って手を早くしてくる金堂くん。


「ヨシくん?」


さっきまで少し遠かった声がすぐ近くで聞こえた。
え、どうして…

「ぇ、や…ゃだ…」

かぶりを振りながら身体も抵抗を示してみるが金堂くんは俺の腹に腕を回してそれを封じ込めた。

「ん、ぅぅ…」

「なに、してるの」

ハッとしてから恐る恐る隣を見ると、
俺の顔を覗き込む澪くんのきょとんとした顔。

「ぁ、あ…澪くん、…ア!」

「澪に見られて気持ちいいんですか、ほらここ」

声を出したことで落ちてしまったエプロンの裾をまくられて、雫を垂らしているそこを見せられた。
人に触られているのなんて見たことなかったし、金堂くんにはこんな…本格的に悪戯されたのも初めてだ。

「や、ぅ…澪く、たすけて…っ」

手を伸ばして澪くんの腕を掴んだ。すると同時に俺のそこを握っていた金堂くんの手に力が少し込められて、ビクリと身体が反応してしまった。
すると澪くんの腕を掴んでいた手を握り返されて、引っ張ってもらえる、と澪くんの顔を見た。

「うん、ここで見てるからね」

にこりと笑いながらそう言われて、俺は諦めとともに息を熱く吐いた。


「ん、ぁああっ…!」

ぴゅくり、と身体が揺れると同時に出てしまい腰が抜けたように力が抜けた。
立ったままだなんて、したことない…こんなに力が抜けるものなんだ。それとも金堂くんに触られていたから…?

「濃い。…本当になにもやってないんですね」

金堂くんの脚に支えられるようにへたりと座った俺に、上から金堂くんがそう言ってきた。
なにもやってない、ってどういうこと…。
白く視界が曇っているようで、金堂くんの顔が見れない。

「かわいかったよ、ヨシくん。」

「ん、……」

澪くんも俺に視線を合わせるように屈んでくれて、そう言われていつのまにかこぼれていた涙を拭われた。

「…あーあ
道田さんがちゃんと見てないからパスタが伸びちゃった。」

「…えぇ…ッ」

「デリを頼みましょうか。
…だからその間、もうちょっと遊びましょうね」

「え、…む、無理…」

澪くんはたたたっとどこかへ行ってしまって、電話を掛け始めた。
それでも金堂くんは俺から目を離さずににやりと嬉しそうな顔をして、半裸の俺を抱き上げた。



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