好きな人
そういえば真木ちゃんと付き合い始めたとき、いつから私を好きだったの?って聞いたのを思い出した。
確か言いづらそうに目を逸らして、最近だって言ってたっけ。
そのときは好きになってくれたことが嬉しすぎて気にならなかったけど、今の司郎を見てすごく重要だって気がついた。
16歳の司郎には、誰か好きな人がいるかもしれない。
私じゃない誰か。
それは紅葉かもしれないし、たまたま街で見かけた女の子かもしれない。
司郎は、真木ちゃんの様子を聞いて、その子と付き合ってない自分に落胆してるんじゃないだろうか。
そんなことをあれから2、3日考えていた。
なんだか申し訳なくなってきたな。
「ねぇ、司郎って好きな女の子いるの?」
「な…、熱っ!!」
「っ、大丈夫!?」
一緒に夕飯を作りながらそんな質問をすると、隣で具を炒めていた司郎に油が跳ねたみたいだ。
赤くなってる、痛そう。
「早く冷やして…」
「っ、いい。自分でやる。」
冷凍庫から保冷剤を出して腕に当てようとしたけど、手を叩かれて奪われてしまった。
そりゃ好きでもない女の子に触られたら嫌かもしれないけどさ。
炒めるのを再開した司郎は、やりづらかったのか保冷剤を床に落としていた。
「っ、だから自分で…」
「ごめんね。でもちょっとの間だけ。」
パスタを茹でてた私は、手があいていたからそれを拾って司郎の腕を冷やす。
嫌がられたけど、放っておくと大変なことになるから。
「…何であんなこと聞いたんだよ。」
作り終わった夕食を2人で食べている最中、司郎がさっきの話を掘り返してきた。
「ん?何となく気になったから。」
「なまえはどうなんだよ。」
フォークでパスタをぐるぐる巻きながら、少し頬を赤くして俯いている司郎。
こういう話題でちょっと照れてるみたいだ。
「今の私?それとも10年前の私?」
「違う相手なのか?」
「それは秘密。」
なんて、本当はどっちも同じ人なんだけど。
なんとなく意地悪して司郎を待ってると、「じゃあ今のお前。」と小さい声で言われた。
「え、昔の私じゃないの?」
「今の方が、気になる。」
「そっか。」
フォークをおいてじっと司郎を見る。
「今の司郎にはすごく申し訳ないんだけど…」
「…っ……」
「私の好きな人は、真木ちゃんなんだ。」
はっきりとそう言うと、やっぱり司郎は驚いた顔をしていた。
「俺…?」
「そう。まあちょっと語弊がある気もするけど、あなたです。」
「何で、申し訳ないんだよ。」
「だって、司郎には今好きな人がいるだろうし、未来で私が真木ちゃんを好きになってるなんて知ったら、少なからず意識しちゃうでしょ?」
「俺は…」
そう、当たり前のこと。
司郎に私が真木ちゃんのことが好きだなんて言ってしまうのは卑怯だけど、聞いてきたのは司郎の方だ。
真木ちゃんと付き合ってるようなことは言ってないし、私の一方的な思いなら未来の彼にはそんなに関係ない…はず。
「…で、司郎の好きな人は?」
「っ、言わねぇ!」
「えー、いいじゃん。教えてよ!」
ぐるぐると巻きすぎて口に入らないくらい絡まったパスタを無理やり詰め込みながら、司郎はガツガツと食べ出して黙ってしまった。
ソースがあちこちに飛んでる。
「あー、そんなに飛ばしたら洗濯大変だよ?」
「…………」
「もう。」
ひとつため息をついて、私も食事を再開する。
結局誰が好きかは教えてもらえなかったけど、わかったことはあった。
やっぱり司郎には、誰か好きな人がいる。
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