背中




昨日司郎に言われたことを考えてたら眠れなくて、ようやく眠くなってきたのは7時頃だった。

今は11時30分、完全に寝坊だ。


「司郎ごめん!寝坊し…」

「あ、やっと来た。」


昨日のことがあるし心配で急いで隣の部屋に行ったけど、出迎えてくれたのは司郎じゃなかった。


「今お前の話してたんだぜ。」

「おい、葉……さん。」


司郎と、なぜか横に並んでいる葉。

ありえないことに自分の名前をさん付けさせてる。


「ちょっと葉!司郎に変なこと吹き込まないで!」

「別に何も言ってないって!」


なぁ、と同意を求める葉に、司郎は黙って頷いている。

肯定した司郎に満足したのか、葉は「じゃあな。」と言って出ていってしまった。


「…ほんとに大丈夫?」

「あぁ、普通に話してただけだ。」

「ならいいんだけど…」


まだ信じられない部分もあるけど、葉もそこまで悪人ではないし本当に何でもないのかもしれない。


「それより、なまえまだ昼飯食べてないだろ?」

「そうだ…ごめんね、司郎。寝坊して。」

「いや、いい。今から昼飯作るから、その、一緒に食べようぜ。」


ちらりと私に微笑んだ司郎は、待ってろと頼りになる一言を残してキッチンへ行ってしまった。

司郎も真木ちゃんも、よく背中を見せる。

そんなことを、ぼんやりと思った。



***



司郎がこっちに来てから5日が経った。

部屋からほとんど出られないのに、よく耐えていると思う。

だいたいは真木ちゃんの持ってる本を読んでるみたいだけど、来た当初よりはぼーっとしてる時間が増えた気がする。

あと、時々私の仕事をソファに座って眺めてることも結構ある。

今の真木ちゃんを考えたら、仕事するってことに興味を持つのは当然なのかもしれないけど。


「見てて退屈じゃない?」

「いや、大丈夫だ。」

「そう?」


熱心に見てる司郎の目は真木ちゃんと同じだ。

同じ人だから当たり前といえば当たり前だけど。


「…そういえばさ。」

「ん?」

「この時代の俺って、いつ帰ってくるんだ?」


あれ、言ってなかったっけ?と尋ね返すと、聞いてないという言葉で返された。

そっか、それは気になるよね。


「1ヶ月くらい帰ってこないって言ってたから、あと2週間以上はいないよ。」

「そんなに……、連絡はとったりしてるのか?」

「ううん。向こうも忙しいだろうし、話すこともないんじゃないかな。」

「そう、か…」


少し寂しそうな顔をした司郎。

最近よく未来の自分のことを気にしてるみたいだ。


「ありがと。」

「え、あ、うん…」


部屋を出ていった司郎は、また何かに悩んでるみたいだった。



***



「………」


自分の部屋に帰った司郎は、ぼすん、とベッドに倒れ込んだ。

なまえから聞く未来の自分は、ありえないほど想像とかけ離れている。

あの写真を見てもしかしたらと思ったが、葉には付き合ってないと言われた。

なまえには、連絡もしてこない仕事男になっている、と。

たとえ付き合ってないとしても、それなりに近い存在ではあると思っていたのに。

見せられた現実はひどく嫌なものだった。


まだ告白もしていないなんて意気地が無さすぎる。

もし今の自分が好きな人と別の人を好きになっていたとしたら、未来の自分を軽蔑する。

心変わりするなんてありえない。

距離を置くなんて、考えられない。


「俺が好きなのは…」






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