彼と彼女の関係
「言える範囲でいいから、話してほしい。」
「………」
当然、いつかは聞かれると思っていたことだった。
だってきっと、私が同じ立場なら聞きたがることだから。
「付き合ってるのか…?」
「どうだろうね。」
「はぐらかすなよ。」
「本当にわからないのよ。」
ずっと一緒だった4人。
その中でも私と真木ちゃんは歳が1つ違いということで、特に仲がよかった。
頼りになる真木ちゃん、格好いい真木ちゃん。
そんな彼を好きになったのは、今目の前にいる司郎よりもずっと幼い頃だ。
ずっと好きな気持ちを押し隠して、なんとなくお互いが意識し合うようになったのは、たぶん10代後半。
そして忘れもしない19歳の春、真木ちゃんが告白してくれたんだ。
彼が私を好きだと言ってくれたのは、その1回だけ。
別れてないからまだ付き合ってるんだとは思うけど、この数年ただ歳をとっただけで彼が今私を好きかどうかなんてわからない。
「でも、仲が悪いわけじゃないのよ?」
「………」
「ごめんね、はっきり言ってあげられなくて。」
「……いや、俺の方こそ、嫌なこと言わせてごめん。」
俯いてしまった司郎はゆっくりと立ち上がり、食器を持って行ってしまった。
何だか申し訳なかったな。
もし司郎がこっちに来なければ、そのまま向こうの私を好きになってくれたかもしれないのに。
私と一緒に過ごして、今の話を聞いて、もし司郎が向こうの私を好きにならなくなったら。
目の前の司郎は、もとの時代に帰ったあと、私じゃない誰かと幸せになるのかもしれない。
そうしてもしかしたら過去が変わって、私と真木ちゃんの仲も、自然消滅しちゃうかもしれない。
そんな不安に駆られた。
***
昨日の寂しそうななまえの顔が頭から離れない。
いつもこの部屋に訪れる彼女は、今朝現れなかった。
昨日のことを気にしているのか、急用ができたのか。
“俺の”デスクには、昨日と変わらずパソコンとその他仕事に使われるであろう文具が少々。
この上にあるものには何も触れていない。
「………」
そっと、引き出しを開けて中を見る。
昨日見たのと同じように、そこには写真が入っていた。
幸せそうに笑っているなまえと、無表情の“俺”。
なまえはそんな俺の腕に抱きついている。
なまえはわからないと言ったが、これは、やはりそういうことなのだろうか。
しばらくそれを見つめているとドアが開くガチャという音がして、慌てて引き出しを閉めた。
「真木さーん。」
「…っ……、葉…」
「年上なんだから“葉さん”だろ。」
「葉、さん…」
部屋の奥まで進んできた葉はクシャクシャと俺の頭を撫でた。
ニヤニヤとからかいの目で見てくるこの人は、10年も経つとこんなに成長するらしい。
“今は”あんなに小さくて泣き虫なのに。
「あれ、なまえは?」
「いないのか…?」
「知らねぇ。一緒にいると思ってたから言っただけ。」
依然ニヤニヤとしている彼に見られるのはからかわれているようで居心地が悪い。
実際からかわれているんだろう。
目を逸らしたが、顎を掴まれて無理矢理目を合わせられる。
「…で、どうなんだよ?」
「は?」
「とぼけんなって。なまえとはうまくいってんの?」
「………」
こいつは何か知ってるんだろうか。
なまえがわからないと言ったことを、この人に聞けばわかるだろうか。
「司郎くーん?」
「あのさ…」
「ん?」
「…この時代の俺と、なまえは、付き合ってんのか?」
なまえにしたのと同じ質問をする。
目の前にいる葉は驚いた顔をしていた。
「そういうことは本人に聞いた方がいいんじゃねーの?」
「聞いたけど、よくわからないって言われた。」
「…………」
少し難しい顔で、自分の顎に手を当てている葉は、何かを考えているようだ。
そうしてちらりと俺を見ると、またニヤリと笑って顔を近づけてくる。
「残念だが、あの2人は付き合ってない。」
「…っ……」
「昔からお互いに近い存在ではあったけどな。」
曖昧な感じだから、なまえはそう言ったのかもしれないぜ。
少し俺より背の高い葉は、そう言ってまた頭を撫でてきた。
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