お買い物




「ここから行くのか…?」

「そうだよ。大丈夫、怖くないって。」

「うわ…っ!」


不安がる司郎の手を引いて、どこでもドア的な空間ホールを通る。

10年前ならみんな日本にいたし、きっと昨日着ていたのも日本で売られていた服だ。

そんなわけで日本のショッピングモールに来たんだけど…


「どんな服が欲しいとか、ある?」

「うわ、あああ…」

「?」


妙なことを口にし出したと思ったら、急に司郎が手を離した。

あぁ、そうだ、手を繋いだままだった。


「ごめんごめん。」

「いや、その…」

「自分で選びたいだろうし、好きなところ行っていいよ。私はついてくから。」

「………」


司郎が歩く方向に一緒に歩く。

私より少し高いくらいの身長、少し大きい歩幅。

一緒に買い物に行くなんて今の真木ちゃんでは考えられないから、ただ並んで歩いてるだけでもすごく楽しい。


「なまえ。」

「ん?」


1人にやけていると、司郎が立ち止まって私を呼んだ。


「この店が見たい。」

「どうぞ。私はここで待ってた方がいい?」

「……いや、一緒に来て、ほしい。」

「わかったわ。」


司郎についていき、彼の服を一緒に見る。

当たり前だけど、10年前の彼と服の趣味が同じで、微笑ましい気持ちになった。


そこで何着か買い、他の店も見て回っては司郎の好きな服を買っていく。

すごい、こんなに買い物したの久しぶりだ。


「司郎、重くない?半分持とうか?」

「いい。女に荷物なんか持たせられるか。」

「あら……」


なかなか紳士なことを言ってくれる。

そうだ、この子はずっと1番上のお兄ちゃんで、頼られる存在だったんだ。


「…それより、よかったのか?」

「何が?」

「こんなに買ってもらって…」

「いいのいいの。これでも結構稼いでるんだから。」


あ、今信じられないって顔した。

確かに真木ちゃんに比べたら働いてないけど、私だって結構頑張ってる。

それに、出かけないから使い道なんてない。

こうして一緒に出かけてくれる“司郎”のために使われるなら、きっと私の財布の中身だって喜んでる。


「…なまえ?」

「え?」

「大丈夫か?」

「ごめん、ちょっと疲れたみたい。休憩しよっか。」

「うわ、だから手…!」


司郎の手を引いてモール内に入ってるカフェを目指す。

つきかけた溜め息は、なんとか吐かずにやり過ごせた。



***



「楽しかったね!」

「…あぁ。」


アジトに帰ってきて、真木ちゃんの部屋で司郎の服を広げる。

恥ずかしかったのか下着だけは一緒に選ばせてもらえなかったし、未だに袋に入ったままだけど。


「別に無理して言わなくてもいいのに。」

「いや、楽しかった。」

「ほんとに?」

「あぁ。」


どうやら本当みたいだ、司郎は微かに笑ってる。

そんな彼を見て私も嬉しくなる。

“真木ちゃん”は、一緒に買い物にも行ってくれないし、行っても楽しいなんて思わない。


「でも…」

「ん?」

「俺がいた時代のあいつらは、大丈夫かな…」


司郎の表情が曇った。

あぁ、昨日夕飯のとき見せた寂しそうな顔は、このことを心配してたからなんだ。

お兄ちゃんだった彼は、1人になった自分よりも弟たちを心配する。

でも、


「あのね、司郎。そのことなんだけど…」

「なまえ、真木ちゃん、入るわよ?」

「…っ……」


ノックされてドアが開く。

部屋に入ってきたのは紅葉、葉、そして少佐だった。


「紅葉…葉……?」

「すげー、ほんとに昔の真木さんだ。」


少し戸惑いを見せる司郎を見てニヤリと笑った葉は、明らかにいじめてやろうという意思を抱いている。

少佐の方を見れば、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。


「なまえ1人では大変だろうから彼らにも教えたんだけど…お邪魔だったかな?」

「ま、まさか!助かります!」

「お前、なまえに襲われたりしてない?」

「葉!変なこと言わないで!」


駄目だ、少佐も葉も楽しんでる。

すがるように紅葉を見れば、助けられないわと口パクで伝えられた。


「まあ、そういうことだから。僕たちは退散するよ。」

「何かあったら言えよ。」


ただ紅葉と葉にも教えたということを伝えに来ただけなのか、彼らは余計なことを少し喋っただけで帰ってしまった。

今はああいうことを言われると困る。

こっちの司郎は、何も知らないんだから。


「なまえ、今の…」

「気にしなくていいのよ。それよりほら、早く服しまおうよ。」

「あ!やめろそれは下着…!」







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