司郎です




「えーと、あなたは何歳の真木ちゃん?」

「……16。」

「そっか。」

「そっちは?」

「25歳だよ。」


16、というとちょうど10年前で、少佐がバベルに捕まったくらいだ。


「あ、それから、えーと……」

「…………」


何か言おうとしたけど、言葉が出てこなくて会話にならなかった。

何を話せばいいのかわからなくて、すぐに沈黙が訪れてしまう。

昔はもっと、たくさん話してたのに。


「……あの、なまえ…さん。」

「なまえでいいよ。何?」

「…何で、俺のこと苗字で呼んでるんだ?」

「え…」


何でと言われても、いつも彼をそう呼んでいるからという理由しか思いつかないない。


「特に理由は、ないけど…」

「…いつからそう呼ばれるようになる?」

「確か、20歳頃かな…?」


それがどうかしたの?と問えば、若い真木ちゃんは何か嫌そうに顔を顰める。


「“今の”俺は、少なくともなまえには、司郎と呼ばれてる。」

「あー…16歳だったらそうだね。」

「お前に真木ちゃんって呼ばれるのは、なんか、変な感じがする。」


確かに、若い真木ちゃんと真木ちゃんは同じ人物だけど、10年生きてない分現在の彼と同じように扱ってはいけない部分がある。

ここは、10年を知らない彼に合わさせるのではなく、一緒に生きてきた過去を持つ私が彼に合わせなきゃいけないんだ。


「じゃあ、司郎って呼んだ方がいい?」

「あぁ。」

「わかった、これからそうするわ。」


そう約束すると、彼は小さく笑みを見せた。

真木ちゃんの笑顔なんて、本当に久しぶり。


「ねぇ、他に聞きたいことはある?」

「…この時代の俺は……」

「ん?」

「や、やっぱり何でもない!」

「あっ…夕飯はそっちの部屋に持ってくから!」


何か聞きかけた司郎は、結局何も聞かず叫んで部屋を飛び出してしまった。

何が聞きたかったんだろう。

叫んだときの司郎は、10年経った今では考えられないくらい子供っぽかった。

あんな頃もあったんだ…



***



あまりたくさんの人に、“司郎”が来ていることを知られてはややこしくなる。

その事について少佐に話してみると、同感だと言われた。

なるべく私と部屋と彼の部屋以外には現れるなと。

だから私は自分の部屋で夕食を作り、彼の部屋に運んでいる。


「司郎、入るよ?」


ノックをすれば、少し高く聞き慣れない声の返事が返ってきた。


「夕食持ってきたんだ。一緒に食べよう。」

「あぁ。」


テーブルに持ってきた料理を並べ、真木ちゃんの部屋にあるキッチンから箸と取り皿を持ってくる。


「これ、お前が作ったのか…?」

「そうだけど…どうして?」

「なまえは料理なんか作れない。」

「失礼ね。私だって10年経てば成長するのよ。」

「………」


何を思ったのか、目の前の司郎はじっとこちらを見た。

黙って見られると、その目の鋭さにドキドキしてしまう。

そんな思いを隠すために、私は箸を持って食事を始めた。


「…なぁ。」

「何?」

「その…」


しばらく2人無言で箸を進めていると、司郎が何かを切り出した。


「…明日着る、服がない。」

「あー…そうだね。」


16歳の彼も身長は高い方だが、26歳の彼はさらに大きい。

いくらアジト内にしかいないとは言っても、ぶかぶかの服を着るのは嫌だろう。


「じゃあ、明日一緒に買いに行こっか。」

「いいのか?」

「うん。今日の夜は悪いけどこの時代の真木ちゃんのシャツを借りて。明日は葉の服を一着借りてくるから、それを着て出かけよ。」

「葉の?」

「うん、今は司郎より1つ上なんだ。一緒に住んでる司郎くらいの子は葉だけだから。」


もっと年下の子はいっぱいいるんだけど、と説明をすると、彼は驚いた顔をしていた。

当たり前かもしれない、あの当時、子供は私と真木ちゃんと紅葉と葉しかいなかったのだから。


「他にも子供が…」

「いっぱいいるよ。残念ながら司郎が姿を見せると混乱しちゃうから会わせられないけどね。」

「っ、わかってる。」


ごちそうさま、と言って司郎はキッチンへ食器を運んでいってしまった。

浮かべていたのは少し寂しそうな顔。

色々思うこともあるのかもしれない。

頼れるのは、当時から知り合いだった中でも一番頼りない私だけ。

不安にもなる。


「あれ?でも…」

「食べ終わったら片付けておくから、そのままにしておいていい。」

「あ…ありがとう。」

「ん。」


キッチンから聞こえてきた声に返事をしたら、さっき考えていたことを忘れてしまった。

なんだっけ。







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