突然の訪問者
「明日からまた海外へ行くことになった。」
「そう…」
「今回は長い。1ヶ月ほど帰ってこられないだろう。」
「…わかったわ。」
頑張ってねと言うと、あぁという素っ気ない返事が返ってきた。
もう少し何か反応を示してくれてもいいのに。
そんなことを思いながら真木ちゃんの背中を見つめ、気づかれないよう小さくため息をつく。
「あ……」
「どうかしたか?」
「う、ううん。何でもない。」
1ヶ月。
ということは、その間にある真木ちゃんの誕生日は別々に過ごすんだ。
そのことに気づいたけど、きっと真木ちゃんは自分の誕生日なんて忘れてる。
悲しいけど、そういう人だから。
「ねぇ、どこの国?」
「コメリカだ。」
「そっか。お土産楽しみにしてるね。」
そう言って彼の部屋を出る。
きっと荷造りなんかで忙しい。
真木ちゃんがそんなにたくさんの荷物を要するとは思わないけど、1ヶ月ならそれなりの量にはなるんだろう。
手伝った方がよかったのかもしれないと思ったけど、今さら戻るのもどうかと思う。
だから、結局戻ることはなく自分の部屋に帰った。
***
真木ちゃんが行ってしまってから1週間が経った。
その間特に連絡はない。
こちらから連絡しなければ、基本向こうは何も言ってこないのだ。
「………」
目を瞑って携帯を握りしめる。
その時とても大きなボン!という音がした。
「え…」
「ここ…」
驚いて目を開くと、こちらに背を向けた男の子が立っていた。
どこだ?と言いながらキョロキョロ辺りを見回している。
あれ、この子、見たことある。
「真木、ちゃん…?」
呼び掛けてみると、ビクリと肩を震わせて恐る恐るこちらを見る。
「……なまえ…?」
「うん。」
「ここ、どこ…」
「私の部屋。」
「嘘だろ…」
信じられないらしい彼は未だに辺りをキョロキョロ見回し続ける。
私だって信じられない。
これは催眠能力だろうか。
「ちょっと待ってて!」
目の前にいる若い真木ちゃん(現在の真木ちゃんも若いけど)に向かってそう言い、握っていた携帯を使って電話を掛ける。
「っ、もしもし、少佐!?」
『なまえかい?どうしたの、そんなに慌てて。』
「と、とにかく私の部屋に来てください!」
それだけ言って通話を切る。
瞬間移動能力者の彼はすぐに現れてくれた。
「一体どうしたんだいなまえ……おや。」
「少、佐…?」
顔を合わせた彼らは、お互いに驚いた顔をしている。
「少佐、これは…」
「僕にもよくわからないけど、どうやら催眠能力ではなさそうだ。」
「…っ……」
「真木に連絡は?」
「今、してみます…」
1週間ぶりにコメリカにいるであろう真木ちゃんに電話を掛ける。
随分長い間コール音を聞いたあと、ようやく出てくれた。
「真木ちゃん?」
『…何だ。』
「今、コメリカにいる?」
『あぁ。』
「何か変わったこととか、ない?」
『特にないが…何か用か?』
「あ、ううん。お仕事の邪魔してごめんなさい。」
忙しそうなのが電話越しにも伝わってきて、必要なことだけ聞いて切ってしまった。
本当は、もう少しだけ話したかったけど。
「真木ちゃんは、普通にコメリカにいるそうです。」
「そうか。」
「あの…」
私と少佐の間にいた若い真木ちゃんは、居心地が悪そうに会話に入ってきた。
「…どうして少佐がここに?なまえも、随分…大人びた。」
「そうだね……キミは、僕たちの視点から言うと過去から来た…つまりキミの視点で言うと未来へ来たみたいなんだ。」
「未来…」
「そう。理由はわからないけどね。」
「………」
瞬間移動のある世界だから、時間移動もありえると思ったのか、若い真木ちゃんはすんなりと納得した。
「わからないことがあればなまえに聞くといい。」
「え…」
「じゃあなまえ、よろしく頼んだよ。」
「あ、ちょっと…!」
憎たらしいほどの笑顔を見せて、少佐は瞬間移動してしまう。
きっと、昔から司郎と私は仲がよかったから、任せてもいいと思ったんだろう。
いくら仲がよくても、外見は違うから彼にとっては知らない人同然なのに。
「…………」
「…………」
再び2人きりになってしまったこの部屋には、シンとした重い空気が漂った。
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