司郎と真木ちゃん




何で、あと1週間は帰ってこないはずじゃないの?

司郎と真木ちゃんは同時に同じ場所にはいられないんじゃないの?

そんな疑問が頭にわくけど、声が思うように出てこない。


「誰だ。」


ちょうど入り口に背を向けているから、真木ちゃんには司郎の顔が見えなかったようだ。

司郎は私からゆっくり離れ、真木ちゃんに向き直る。

真木ちゃんはその顔を見て一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに険しい表情に戻った。


「おい、なまえから離れろ。」


司郎よりも低い声が、静かな部屋に響く。

こちらに歩いてきた真木ちゃんは、私の目の前に立つと手首を思いっきり掴んだ。


「悪いが、こいつは俺のだ。だから手を離せ。」

「…っ……」


まさかそんなことを言われるとは思わなかったから、私も、たぶん司郎も驚いた。

だけど、真木ちゃんを睨んだ司郎は怯むことなく言い返す。


「…何でだよ。付き合ってないんだろ?だったら俺がどうしようと勝手だろ。」

「何を…」

「司郎!」


しまった、否定はしたけど本当のことは教えてなかったからまだあっちを信じ込んでた。

慌てて司郎を止めたけど、事情を知らない真木ちゃんは自分が呼ばれたと思ってこっちを見てる。

紛らわしいな!


「ちょっと来て。」


ちょっと力の緩んでいた真木ちゃんの手を解いて、少し離れたところへ司郎を連れていく。

そのとき、司郎の体がちょっと透けているのに気づいた。

やっぱり、同時には存在できないみたいだ。


「なまえ、どういう…」

「ごめんね。曖昧にしてたけど、本当は真木ちゃんと付き合ってるんだ。」

「だけど、わからないって…」

「ほら、あんな感じだからあっちがどう思ってるかわからないでしょ?」

「………」


だから、真木ちゃんが私をどう思ってるかは別として、形としては付き合ってる。

ゆっくりとそう告げると、司郎は俯いてしまった。

やっぱり騙されたことになるし気分悪いよね。


そうしている間にも、彼の体はどんどん薄くなっていく。

もう、向こう側が見えるようになってきた。


「なまえ。」

「ん?」

「……たぶん、あっちの俺は、なまえのことが今でも好きだと思う。」

「え…」

「“俺”が、なまえ以外を好きになるなんてあり得ない。」


透けた体で、司郎は私を抱き締めた。

抱き締められる感覚は、いつもの半分しかない。


「司郎…?」

「過去に帰ったら、すぐなまえに思ってることを伝える。」

「………」

「それから、こんな風にならないようにちゃんと気持ちは外に出すようにする。」


愛してる、最後にそう囁いて、司郎は私から離れた。

もうほとんど見えないくらいの彼は、真木ちゃんの方へと向かっていく。

そして何かを伝えたあと、もう一度こっちを見て微笑んだ司郎は、ついに消えてしまった。







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