デートしないか




「ん…」

「起きたか?」


目が覚めると、すぐ近くに司郎の顔があった。

そうだ、昨日から一緒に寝ることになったんだ。

抱き締められた状態で眠り、同じ状態で起きる。

真木ちゃんとは数えられるくらいしか一緒に眠ったこともないのに。


「…どうかしたか?」

「ん、朝はちょっと弱いだけ。」

「そうか。」


安心した顔をする司郎にこちらも自然と笑みがこぼれる。

高望みはしないけど、こんな生活を真木ちゃんとしてみたいと思っていたのかもしれない。


「私、朝ごはん作ってくるね。」


なるべく何でもない風を装ってベッドから抜け出す。

私の方が、司郎が帰ってしまうことを嫌がってしまいそうだった。



2人で向かい合って座り、一緒にご飯を食べる。

いつの間にか当たり前となってしまった行為は、真木ちゃんとはあまりできないことだ。



「なぁ、なまえ。」

「何?」

「デートしないか?」


食事中、唐突に司郎が言い出した。

え、デート?


「別に凝った場所じゃなくていい。夕食の材料を一緒に買いに行くとか、その程度でいいんだ。」

「いいけど…急にどうしたの?」

「今のうちに、こっちのなまえとの思い出を作っておきたい。」


さらっと言って再び箸を進める司郎を見てると、私も10代に戻ったような感覚になる。

この歳から付き合ってたら、こんな会話もたくさんしたのかな。


「わかった。じゃあついでに私の買い物にも付き合ってもらおうかな。」

「あぁ。」

「いいの?即答しちゃって。女の子の買い物は長いんだよ?」

「わかってる。」


そういうのも、デートっぽくていい。

フッと微笑んで言った司郎。

どうして彼はこんなにも素直にものが言えるんだろう。

真木ちゃんが10代でも、こんな風ではなかった気がする。

もしかしたら、真木ちゃんと司郎は同じ人物だけど、完全に中身まで同じというわけではないのかもしれない。

味噌汁を啜りながら、なんとなくそう思った。



***



ショッピングモールで買い物をして、そのあとスーパーで夕飯の食材を買うデートコース。

私が服を見ている間なんてつまらないに決まってるのに、司郎は嫌な顔ひとつせず一緒にまわってくれた。

店員に渡されるショップバッグは、私が受けとる前に司郎が持ってくれる。

あんなに嫌がっていた手も、今では自然に繋がれるようになった。


だけど、どこか違和感を感じる。


なんて、本当はわかってる。

どんなに冷たくても、私は“真木ちゃん”が好きなんだ。

こうして一緒にいても、私は司郎と真木ちゃんを同じ人物として扱えない。



「なまえ?」

「………」

「…なまえ?」

「え…」

「大丈夫か?」


はっと気がつくと、目の前で司郎が手をヒラヒラさせていた。

そうされるまで呼ばれてたことに気づかなかったみたい。


「疲れたのか?」

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけ。」

「ならいいんだが…」


心配そうに私を見る司郎に、本当にちょっと考え事をしていただけだと念を押した。

欲しかったものもだいたい買って、2人で並んで歩いていく。


「他に買うものは?」

「えっと……あ、1つ忘れてた。」

「何を買うんだ?一緒に、」

「生理用品、なんだけど…」

「…っ……」


顔を真っ赤にした司郎は、俯いて「ここで待ってる。」と小さな声で言う。

うん、司郎ならそういう反応をすると思ってた。


「ごめんね、すぐに戻ってくるから。」

「あ、あぁ。」


いってきます、と言って速足で司郎のもとを離れる。

向かった先は薬局ではなく雑貨屋さんだった。

明日は、司郎の誕生日。

そのプレゼントを買いに来たのだ。


このお店にはよく来るから、どんなものが置いてあるかはだいたい把握している。

その中から司郎に似合いそうなものを買って、戻ろうとしたところで足を止めた。


「…真木ちゃんの分も、買っていこうかな。」


帰ってくるのはまだまだ先だけど、やっぱり誕生日前に買っておきたい。

だけど、ここに真木ちゃんが気に入りそうなものってあるかな。


「あら、なまえ?」


入り口近くの棚を物色していると、不意に声がかけられる。

振り返ると、たくさんのショップバッグを提げた紅葉が立っていた。

こんなところで会うなんてすごい偶然。


「何探してるの?」

「真木ちゃんの誕生日プレゼントを買おうと思ってるんだけど、なかなかいいのがなくて…」

「心配しなくてもなまえが買ったものなら何でも喜ぶわよ。」

「そう、かな…」


そんなことがあるわけない。

苦笑して紅葉を見ると、呆れたように溜め息をつかれた。

私、何か変なこと言った?


「そういえば、さっき下で真木ちゃんジュニアと会ったわよ。」

「あ、うん…」

「なまえとデート中だって言ってたわ。あなたたちそういうことになってるの?」


確かに、朝の様子からしたら司郎はそう言いそうだ。

だけどあんまり言わないでほしかったな。


「あなたたちの問題だから口を挟むつもりはないけど……今のなまえは幸せそうじゃないわね。」

「…っ……」


じゃあまたね、と言って去っていく紅葉の後ろ姿をしばらく見つめた。

彼女の言葉は心に響く。

不安に思っていることをずばっと言うからだ。


「……これにしようかな。」


喜んではくれないだろうけど、使ってはくれるかもしれない。

そんなものを見つけ、レジへ持っていく。

綺麗に包装されたそれを鞄にしまい、いそいそと司郎のもとへ戻った。

今の気持ちを悟られませんように。







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