同じ人




この司郎も、真木ちゃんも、同じ人物。

だけど、本当にいいの?



遊園地の帰りにレストランに寄って、そのあとアジトに帰った。

その間司郎は、普段と変わらないように過ごしてたように思う。

それなりに会話して、それなりに笑って。

だけど私は、頭の中がいっぱいだった。


「なまえ。」

「何?」

「…やっぱり、俺とこの時代の俺は、別人か…?」


アジトに瞬間移動してすぐに、司郎が発した言葉。

返答に困って、私は彼を見つめるしかできなかった。


「なまえは“真木ちゃん”が好きだと言った。」

「う、うん。」

「俺は、自分の時代のなまえも、お前も、同じ人物だと思える…」

「…っ……」


同じ人物だと思うってことは、10年前の私も好きってこと?

嘘でしょ?

だって、真木ちゃんは私と付き合う少し前に私のことを好きになってくれたって言ったのに。


「こっちの俺となまえは、付き合ってないし、」

「え、ちょっと待って…」

「…違うのか?」

「誰から聞いたの?」

「葉が…」

「あいつ…!」


やっぱり司郎に余計なこと言ったんだ。

あとで絶対叱ってやる!


「ほんとは付き合ってんのか?」

「え、いや…」


しっかりと私を見つめる司郎に言葉を失ってしまう。


「もし、なまえが“俺”を好きなら…」

「…っ……」


抱き締める腕の力は、少しだけ真木ちゃんより弱い。


「……向こうへ帰るまででいいから、付き合ってほしい。」


だけど、伝わる熱や生まれる安心感は、やっぱり同じだった。





じゃあまた明日、と言った司郎は、微笑んで私の部屋を出ていった。

彼らしく、特に何かしていくわけでもなく。

ただ、真木ちゃんと違うのは、去り際にもう一度「好きだ」と言ってくれたこと。

私は、これを望んでたのかもしれない。


何も言ってくれない、必要以上に話さない真木ちゃんとは違う、気持ちをちゃんと言ってくれる司郎。

過去の自分と今の真木ちゃんへの罪悪感はあるけれど、“今”私と彼が一緒にいることは何も悪いことじゃないと自分に言い聞かせる。

例え司郎が過去から来た人物でも、この時間軸ではなまえという人物と司郎という人物は恋人同士なんだから。



***



「なまえ、ちょっといいかい?」


次の日、少佐が私の部屋へとやって来た。

何やら重そうな本を小脇に抱えている。


「真木は…」

「自分の部屋にいます。昨日疲れたから、たぶんまだ寝てるんじゃないかな…」

「…そうか。」


ちょうどいい、と言った少佐は、例の重そうな本を私のデスクに置いた。


「あれから色々調べたんだけどね、時間移動に関する超能力は、エスパーの仕業ではないようなんだ。」

「じゃあ、原因は…」

「わからない。ただ、何かきっかけがあったから起きたんだろうね。」


過去にも何度かあったみたいだ。

そう言いながら分厚い本を開いて少佐が見せてくれたところには、確かに時間移動の前例が書かれていた。

あれ、でもこれ…


「少佐…」

「あぁ。どのケースも、その時代の本人は時間移動した方とは別の場所にいる。」

「そして、同じ場所に2人が存在したとき、時間移動した方が元の時間に帰る…」

「そういうこと。推測の域から脱してはないものだけど、発表された論文によると時間移動した方はその時の記憶をなくすらしい。同時代の周りの人物も、同様にね。」


あぁ、だから私には真木ちゃんがいなくなった記憶がないんだ。

少佐が言うには、その間の記憶には何でもない日常が埋め込まれるらしい。

だけど、時間移動された方の記憶は消えない。

つまり司郎は帰ったら私のこと忘れちゃうけど、私は彼のことを忘れられないんだ。


「真木が帰ってくるまで2週間弱くらいだったね。」

「えぇ。1ヶ月程の任務だって言ってたので。」

「同じ場所、と言っても、その範囲はそんなに狭くないはずだ。きっと2人がこのアジト内のどこかにいれば、同じ場所にいることになる。」

「…………」

「2人を会わせるのはあまり良くないかもしれないから、真木が帰ってきそうな頃には、こっちの真木をなまえの部屋で匿ってやってくれるかい?」

「…わかりました。」


よろしく頼むよ、また何かわかったら教える。

少佐はそう言って出ていってしまった。

重そうな本は私のデスクに載ったまま。

ざっと目を通してみたけど、過去へ帰ってしまう際どういう風になるかの詳細は一切なかった。

瞬間移動みたいにすぐに消えてしまうのか、それとも徐々に姿が消えていくのか。

わからない、だけど――


真木ちゃんが帰ってきたら司郎は行ってしまう。


それだけは、わかった。






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