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かっこいい。

そう思ったのは自分だけではないようで、一緒に見ていた子供たちも口々に同じことをこぼしていた。

誰からも尊敬される人物。

そんな人物に、自分も憧れているのだ。







「…おい、なまえ。」

「え?」

「え、じゃねーよ。手止まってるじゃん。」


できるからって手加減するなよ。

向かいで宿題をしている人物は、なまえの白いワークを見つめて言った。

宿題を早く終わらせるためとはいえ、勝負しているのだから真剣にやれと怒っているようだ。


「ごめん、ちょっと考え事してた。」

「考え事?」


鉛筆を置き、彼は訝るようになまえを見る。

また恋とかそんな話か?と聞いてきた彼に、なまえは笑った。


「違うよ。昔のこと。」


実際には1年も経っていないが、現在と対比すればやはり昔に分類されるのだろう。

3年生と4年生では感じ方が違う。

中の上、一応高学年なのだ。


「何か思い出すようなことでもあったか?」

「うん。昔に比べて隼人くんが随分男の子っぽくなったなーって。」

「うるせぇ。」


冗談を言うと気に障ったのか、人間誰でも成長するんだよ、とそっぽを向いて言った彼はまた宿題に取りかかる。

言われたことを思い返し、なまえは確かにその通りだと思った。

あれだけ早く大人になりたいと願ったあの頃から、少ししか経っていないのに随分成長している。

チームを組んでではあるが、休日には任務もそれなりに与えられるようになった。


目の前で宿題をしている隼人も、昔の面影がほとんどないくらい成長した。

スポーツが得意でちょっとかっこいい彼が、未だ変わらず女の子から人気なのにも頷ける。

また怒られてはいけないとなまえは手を動かしたが、やはり気持ちは別のところにあり解くスピードはあまり早くなかった。



***



「少佐、なまえを知りませんか?」

「ん?彼女なら友達のところに出掛けるって言ってたけど…」

「そうですか。」


少し頼みたいことがあったのだが、と真木は心中で小さな溜め息をついた。


「……なまえが来てから5年か。」


随分成長したね。

真木の姿を見つめ、ぽつりと呟くように兵部は話す。

その言葉を聞き、真木も共感して頷いた。


いつまでも小さい子だと思っていたが、随分成長したと思う。

毎日見ていれば微妙な変化で気づかないが、ちょっと目を離せば驚くほどの成長ぶり。


「まだまだ背伸びをしてるようなところも多いけど、だいぶ大人びた。」

「そうですね。」

「寂しいんじゃないのかい、お父さん。」

「………」


確かに、寂しいと言われればそうなのかもしれない。

だが同時に、立派に育ってくれて誇らしいという気持ちもある。

さっきも、彼女に頼みたいことがあって探していたのだ。

小さなことなら頼ることもできるくらいになった存在。

あまり子育てをした記憶はないが、ちゃんといい人間に育ってくれた。

手のかかる子ほど可愛いという言葉があるように少々物足りなさは感じても、自分の娘らしい育ち方だと真木は思う。


「まあ、義務的な期間はあと5年弱…しっかり頑張ってくれよ。」


そう言い残して去っていった兵部に、真木は何も言葉を返すことができなかった。

5年。

ここまで来るのにあっという間だったのだから、きっとこれからはもっと早く感じるだろう。

その日が来てしまえば、自分となまえは年の離れた同僚という距離のある関係になってしまうのだろうか。


娘の成長を素直に喜ぶべきなのだろうが、なんとなくそれができない自分に真木は顔を顰めた。




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