恋ですか?




授業が始まってからは気にならなくなっても、休み時間に友達と話していると思い出してしまう。

それは1人になっても同じことで、帰り道、なまえは歩きながらモヤモヤとした思いを抱えていた。


少女漫画が流行り出したのは、女の子たちが異性を意識し出し恋をし始めたからだ。

漫画の話題と同じように、○○くんが格好いい、好きといった話をよく聞く。

その相手はスポーツのできる男の子であることが多く、好意を向けられる者はだいたい決まっていた。

複数の女の子が同じ相手を好きになり、ライバルだねなんて笑いながら話しているのも聞く。

そんな中、なまえにも気になる相手がいた。

ただ、他の子と違いこれが恋なのかわからない上に、相手もみんなが好きになるような人ではない。


「ほんとに恋なのかな…」


少女漫画でなまえが気に入った作品は、同じように自分の気持ちが恋なのかと悩んでいた。

だからこそ、共感したし続きが気になっている。


「うーん…」

「いつまでそうしているつもりだ。」

「ま、真木ちゃん!」


家の前に着いても悩み続けて立っていると、内側からドアが開けられた。


「帰りが遅いと心配するだろう。」

「ごめん、なさい。」

「…何かあったのか?」


俯いたなまえの表情を見ようと真木はしゃがんで話しかける。

そんな彼に、なまえは慌てて顔をあげ目を逸らした。


「ちょっと考え事!」

「考え事?」

「それより、真木ちゃんはこれからお仕事?」

「あぁ、簡単なものだからすぐ終わるだろうが…」

「そっか。頑張ってね!」

「っ、おい!」


真木の制止を無視し、なまえは部屋の中へと駆けていく。

ドアが閉まるバタン!という大きな音を聞いた真木は、様子がおかしいと思いつつも仕事があることを思い出し、仕方がなく出掛けていった。



「…………」


こちらも玄関のドアが閉まる音を聞き、安心したように息をつく。

なまえはすぐにアジトへ帰ることはせず、しばらくクローゼットの中で膝を抱えていた。

妙な態度をとっていると思われているのはわかっているが、どうすればいいのかわからない。


「だって……」


好きかもしれない相手は、真木ちゃんなんだから。



***



「それでね、この間…」


なまえが悩んでいても平等に時間は流れ、気づけば金曜日になっていた。

いつものように休み時間は数人が集まって、恋の話に花を咲かせている。


「ねぇ、なまえちゃんは好きな人いないの?」

「えっ…」

「そういえば聞いたことないよね。」


全員の視線が自分に向けられ、なまえは俯く。

これはいないと言ったら白状しなさいと詰め寄られる雰囲気だ。


「ねぇ、いないの?」

「っ、恋かどうかは、わからないんだけど…」

「やっぱりいたんだ!」

「誰!?」

「えっと……」


切り出しては見たものの、さすがに真木の名前は出せないし、かといって今さら内緒だとは言いづらい。


「……小さい頃から一緒にいる、年上の人なんだ。」

「いいなー。そういう人がいるって羨ましいよね!」

「でもそれなら、恋っていうより憧れの可能性もあるね。」

「あ、そうかもしれない!」


なまえの話を聞いて、他の子達は話を発展させていく。


「………」


その会話を聞きながら、なまえは先程言われた言葉について考えた。


憧れ。

たしかに真木のように仕事ができるようになりたいし、彼を支えられるようになるために頑張っている。

でもそれは、憧れなのだろうか。

自分の思いが恋であるかどうかはまだわかっていないが、憧れでもないような気がする。

結局次の授業が始まるまで、なまえはそれについて考えたまま黙っていた。



「なあ、なまえ。」

「ん?」


授業中、隣の男の子が話しかけてきた。

彼は毎年同じクラスだということもありなまえとは仲がいい。


「あんな話題で毎日同じ話してて楽しい?」

「楽しいよ。それに同じ話じゃないし。」

「ふーん。」

「隼人くんには面白くないかもしれないけどね。」


前を向いてしまった彼を見て、なまえは苦笑しながら答えた。

恋の話題で盛り上がっているのは女の子だけで、男の子はまだまだやんちゃに暴れまわっているのが楽しい年頃だ。

きっと彼も興味はないのだろう。

ただ毎日聞こえてくる似たような話にうんざりしたから聞いただけなのだ。


「………」


そんなことを考えていると、先程の休み時間のことを思い出してしまった。

いつも授業中はちゃんと先生の話を聞いてるのに。

なまえは小さくため息をつく。

そのとき隼人はちらりとそちらに視線を向けたが、彼女は気づくことなく黒板を見た。





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