少女漫画
「なまえちゃんにも貸してあげる」と言って渡されたものを、アジトに帰ってからじっと見つめる。
そこにあるのは1冊の雑誌。
数百ページある月刊少女漫画誌だった。
最近同級生の女の子たちが色恋沙汰に興味を持ち始めて、こういったものが流行り出した。
その中でもこの出版社のものは特に人気らしい。
絵本を読んだりアニメを見たりすることはあっても雑誌の漫画を読んだことのなかったなまえは、どんなものかと期待しながらそれらを読み始めた。
「うーん…」
数時間かけて一通り読み終えたなまえは、表紙の目がキラキラした女の子を見ながら難しい顔をした。
十数種類の話が載っているが、そのほとんどが似たような内容だった。
中学生、高校生くらいの女の子と、それと同じくらいの男の子のお話。
恋する女の子がテーマの話ばかりだったが、正直に言うと、期待したほどではなかった。
続き物だからそれまでの話がわからなくてつまらなかっただけなのかもしれないけど。
「なまえ、ごはん……何してるの?」
「あ、紅葉姉さん。」
考え込んでいると、紅葉が部屋に入ってきた。
「友達に借りた漫画を読んでたんだけど…」
「あら、少女漫画?懐かしいわね。」
「読んだことあるの?」
そう問えば、紅葉は昔はよく読んでいたと答えた。
「じゃあ1個聞いてもいい?」
「何?」
「恋愛って、どう思う?」
「は?」
なまえはほら、と雑誌を差し出した。
王子さまみたいにキラキラした男の子が何人もいる。
「どうって…」
「そんなに楽しいの?」
「そりゃ、気持ちの持ち方が変わるし、ちょっとしたことが嬉しかったり楽しかったりするんじゃない?」
質問しておきながら、なまえは「ふーん…」と興味の無さそうな返事をする。
そんな彼女の反応に何かを感じた紅葉は、見せられた雑誌を置いてニヤリと笑った。
「何?なまえにも好きな人ができたの?」
「そんなんじゃないけど…」
「隠さなくってもいいのよ。」
「だからそんなんじゃないって…!」
「おい、何をしてる。」
少し興奮気味になまえが返したとき、ドアが開いて真木が入ってきた。
「…っ……」
「あ…」
「夕食ができたからなまえを呼んでくると言い出したのはお前だろう。」
なかなか来ない2人を呼ぶために、彼もここへやって来たのだ。
紅葉は一瞬しまったという顔をしたが、すぐに笑って真木の肩をぽんと叩く。
「ちょっとガールズトークをしてたのよ。」
「ガールズトーク…?」
「先に行ってるわ。」
ひらひらと手を振りながら部屋をあとにする彼女の後ろ姿に真木は眉根を寄せる。
確認するようになまえを見たが、こちらは何か焦ったような顔をしていた。
「紅葉と何の話をしていた?」
「な、何でもない!」
「………?」
明らかに不審な態度のなまえに真木は首を傾げる。
だが見つめてもそれ以上彼女が何か言うことはなかった。
諦めた真木はひとつ溜め息をつき、「先に行くぞ」と言って部屋を出る。
残されたなまえも、しばらく雑誌の表紙を見つめたあと彼のあとを追った。
***
翌日、なまえは学校で借りた漫画を返した。
その際「面白かったでしょ?」と言われ、とりあえず肯定しておいた。
1つだけ面白いと思えるものはあったし、嘘は言っていない。
だが何が一番面白かったかと聞かれ、タイトルは覚えていなかったため笑って誤魔化した。
「私はね、これとこれが好きなんだ。」
「私もそれ好き!」
「あ…」
そう言って返した雑誌を開き、見せられたお話の中には、なまえが唯一面白いと思ったものもあった。
結構続いているものだったが、流れがちゃんと理解できたもの。
内容も、他のものとは違い興味が持てたのだ。
続きが気になるよね、と友達の話が盛り上がってきたところで、朝のチャイムが鳴る。
「………」
席につき朝のホームルームで先生が来るのを待ちながら、なまえは先程話題に出た話のことと昨日のことを考えた。
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