「古い友を見に来た」


そう呟く彼の瞳は

たゆたう波のように



心中で毒突く。
うわべ
上辺だけの厭らしい笑いを振り撒く、面白くも無い社交場。

忘れたい苗字が仇となり
ただ招待されたレセプションにマリアは一人、手に持つグラスをゆらす。

救いの手は未だ来ず

From:Sunny
sub:わり
――――――――――
渋滞つかまった。
あともちょい

指圧でモバイルがへし折れるところだったわ。(肝心な時に、)閉じたモバイルをクラッチに押し込め神の名を唱え溜め息。

落ち着くよう言い聞かせ、側から耳につくヒール音に目をやる

瞬間


―――スローモーション


嗚呼。今日は厄日ね


物凄い形相でグラスを、中身の水をこちらに向ける誰かさん。


いいわ慣れてるもの

ただ折角
アップした髪が濡れるの



零れる寸前のグラスを元に
目にも止まらぬ迅さで向きを直し、するりと自然な動作でグラスを受け取る

あいだに
仲裁立つ、青年。

「あぁ丁度水が欲しかったんだ、気が利くな」

固まる女性が口を開く前に

「ありがとう」

声色で威圧する。
肩を跳ねらせ、その女性は危機にさっさと退散した。

今の人間業じゃない

「貴方、」

身を翻し青年は周囲に溶け込む

「あっ!」

コメディの1シーンのよう。
足がもつれたボーイの、運んでいたワインが青年のブリディッシュ・ホワイトスーツに飲ませた

『‥‥‥‥‥。』

お互い沈黙し
その、Blueの瞳と目が合い

「ジーザス」

「あぁ‥代弁痛み入る」


私はこの時
今日はじめて笑った



レストルームに入っていった彼がそう時間掛からず戻ってくる。

「レッドワインだったのに、‥!?」

襟を正すスーツはもう新品同然、完璧に乾いてるし何で!

「マジシャンとでも思ってくれ」

「何よそれ!」

(あら。でもしっくり思えるのは何でかしら?)

まるで南の海、その髪色に目が行き

「成るべく顔を晒したくなかったから、助かった」

ボーイの失態して直ぐに此処へ駆け込んだ。早い対応で救われたと、差し出される手

「マリアよ」

「親しいものたちからはオー≠ニ」

互いに握り交わし。

「EnglishのO?それともゼロの」
「呼びやすい方でいい」

やわらかく手を、引かれ
側に備えているソファーへと落ち着かせてもらい。それだけで

頬があつい

極上の
お姫様な心地

「先刻の、あれは余計なことをしたなら謝る」

直ぐに表情を戻し、気付かれないよう声のトーン。

「あんなのしょっちゅう慣れっこよ、貴方と同じ」

知られたくないフルネーム。

「そんなOは何でこんな所に」

「友を」

僅かに俯く彼をみて

「古い友を見に来た」

伝わってくる


「大切なひとなのね」


「‥もう、長いこと会っていなかったが」

背を向け、しずかなくらい廊下の先へと

「会いにいかないの‥?」

「十分だと解った」

すると

正反対からきこえる
聖母の名を、探す遅れてきた

弾かれるよう立ち上がり


「マリア」


背から

青年の 吐息が
首筋を撫でる

「もしこの先 話しを聞かん愚か者と遭ったら『ノック』をしろ」


「情熱の炎を持ってノックをしなければ、誰も心の扉を開いてはくれない」


芯まで貫く
あつい言の葉に焦がされる



「あの子≠よろしく」



降りかえれば廊下だけが広がる

「―いマリア!」

極彩色の髪が、現実だと引き戻す。

「どした呆けた顔して」

「サニー‥‥?」

・・・・・・じょーぶ
「ん、大丈夫か」

繊細な手付きで前髪をなおし、繋いでくれるサニーの手。


そうよ

私は


この手サニーと一緒なら
どこへだって乗り越えて行ける




会場から去り深い茂みの奥へ

「待たせた」

彼の帰還に身を寄せてくる竜と猪。

「まさか目当ての彼女から機会が来るとは」


人は

独りだけでは生きていけない。


「余計な心配だった、か‥俺たちも戻ろう」


今宵は祝福祈り

在らん限りの幸福あれかし


「再び相見えよう」



愛しき人の子ら


 




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