カナリア
金糸雀 カナリア

さぁもう飛びたてます


怖れは去りました

蒼き空を彩りましょう



広すぎず狭すぎず

レンガ
煉瓦造りであるおだやかな私用部屋。ここ、店の主、彼にとってはすこし窮屈な、城にクラルは腰掛け。本のページをめくる。

「クラル」

耳の奥で木霊する


今日は、君とランチを一緒にしたい。

だから

僕の店に傍にいてくれないかい


朝焼けに。目覚めた刻からどこか、彼の笑みがぎこちなかった。お誘いに。うれしさよりも、焦燥、が

彼の心がやわらぐなら
Yesと頷いた。


決して外に出てはいけないよ


城の奥手にいざなわれ
kissを、触れあうだけのそれを交わし、告げられ言葉。

準じることを胸にちかい
数刻経ち 陽が頂点を極める

・・・・・・
城の主は、憩いの時にその顔を見せ。二人で飲む、紅茶を入れようと再び奥へ


クラルは本を、手に

金糸雀のおはなし

下巻


もう 一冊は

椅子から向きをかえ、棚を見るも、ない。

いつの間にか
窓からの喧騒は失せ

外から なにか

這いずる 音


窓の外に


幼子


勢い立ち、椅子が倒れるもかまわず飛び出す。


誰もが毒壁に護られた建物の中へ息を潜めるこの時刻。

幼子を遥かに上回る
猛獣が、その子の前まで

無我夢中で手にしていた本を投げつける。

思いの他派手な音に、注がれる眼光に呼吸を忘れる。


金糸雀は


決して 外に


金糸雀は


回転遠心力を加え。巨大な尾が奮われる

襲いくる
痛みにきつく目を閉じ

くらやみのなか 浮遊感


「え」


いたみを感じない、足が、地面についていない。巨大な尾の上を、両膝の裏と背を支えられとんでいる。

息を呑む前に地に着き、そっとやわらかく立たせてくれるその、子を凝らし見る。

子は満面の笑みを浮かべ直ぐ、腰から一丁ノッキングガンを手に跳躍。交差したあとには、ゆるやかに倒れゆく獣

閑散としたこの場に地鳴りにも似たおおきな音に思わず強張り。退治した獣のそこに落ちている本を拾い、歩み寄ってくる

視線を下に
深ぶかとしたお辞儀と共に、差し出される本。

「、あ あの」
「お姉ちゃんココの匂いがする」

急速に顔が熱くなるのを感じ。

「その本‥‥」

子が言葉を続けるのを遮り、周辺の建物から聞こえだす住民の声に、咄嗟に子の背に腕を回し抱き上げる。


忽然と姿を消した彼女が裏口から戻り、ココは名を叫ぼうと

「ココ!」

とても。見知ったその子を、彼女が抱きかかえ叫びを詰まらせる。

「どうして、」

唖然とするココに、背負っていた小さなリュックから

「はい。これ、忘れもの」

金糸雀のおはなし

上巻

以前トリコ宅に置き忘れてしまった。

互いに無言で、本と子を見比べるココとクラルは。

「話すと‥‥少々長くなってしまうのですが」

先に口を開くクラルの影に、もう災厄の影は消え失せている。心からの、安堵にココはただ感謝の念に彼女と子を抱き寄せる

良かった

「ココお腹すいた?」

「うん‥そうだランチを食べよう、皆で」


不思議で奇妙な出逢い


素敵、とほんのり頬を紅らめクラルはちいさな手を握り交わし


名を呼びあおう

そこから始まる奇跡のおはなし

 





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