俺様的勧誘方法 | ナノ
3
「律は俺と食べるんで、昼休みは先約ありです」
そう言うと斗真はその整った顔で爽やかに笑って狩野を見上げた。眉を寄せた狩野を気にすることなく、なぁ?と律の頭を撫でる。
律は「まだ寝癖ついてたのか」と自分の頭を触る指を意識しつつ、狩野の方を向く。
「らしいんで、生徒会室には行かないです」
きっぱり断ったとこで、大人しくなった狩野に首を傾げる。大人しくなった会長なんて気持ち悪いと思いながらも、もしや言い過ぎたかと律は内心焦った。思うに、この会長は図々しいくせに変なところでメンタルが弱い。そう思っているのは斗真も同じなようで、「これ泣くの?」と小声で律にきいてくる。律は首を傾げたまま「泣くかも」と答えたところで、狩野が勢いよく顔をあげた。泣いてはいなかった。
「行くぞ!」
「いや行かないって」
「違う!俺は小林 律と二人で食堂に行く!」
ふん!と腰に手を当てる会長にぱちぱちと目を瞬かせる律の向こう、斗真は嫌そうな顔を隠しもしないで会長を見上げている。
「いや、さっき言ったとおり、律は俺と食べるんですってば」
「じゃあお前もついてこればいい!」
「…うざいけど意外と妥協してる…」
「まぁ小林 律の隣には俺が座るがな!」
高笑いをした会長は律たちの返事を聞く前に教室から出て行ってしまった。
残された律と斗真は目を合わせてそれはそれは深いため息をついたのだった。
***
ついに迎えた昼休み。
狩野が居たお陰もありすぐに取れた席に座って律と斗真と狩野の三人は各々が頼んだ昼食に手を付けていた。
「律」
小声で自分の名前を呼ぶ斗真に、律はうどんから視線を上げた。その先では、親友が「どうすんの」と目線だけで、ちゃっかり律の隣を陣取る狩野を指す。彼は上機嫌にナポリタンを形の良い口に運んでいるところだ。
律は親友に視線を戻すと、「まかせろ」とばかりに自分の胸を叩いた。
「あの、かいちょ、」
「なんだ小林 律。生徒会に入りたくなったか?大歓迎だ」
「違います全然関係ない。…あの、ナポリタン美味しいですか?」
「普通だな…一口いるか?」
「どうしよう…」
「ちょ、律、お前のそれも関係ないから!」
「あ、そうだった」
すっとぼける律に斗真は頭を抱えたくなった。
「会長…ここにいてもいいんですか」
律はそう尋ねて、ちろちろ目を動かした。
律たちの座る席の周囲は、普段は特別席で優雅に昼食をとる会長様が自分たちが使う簡素な席で、しかも一般生徒の一年生と昼食を食べているのを見て珍しそうに沢山の視線を寄越してくる。
正直言って居心地の良いものではなかった。
こんな居心地の悪い思いを会長はしているのかと思うと少し複雑な気持ちになる律の横で、当の本人は何食わぬ顔で言ってのける。
「俺がいたいとこにいるのに良いも悪いもないだろう」
その発言に、律も斗真も一度動きを止める。言った本人はさも当然という表情をその美しい顔に乗せてナポリタンを食べる。
いつも変な言動ばかりするから忘れていた。
その威風堂々たる風貌を前に思い出す。
そうだ、この人は、色んな意味で歴代最高と謳われる狩野生徒会長なのだ、と。
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