俺様的勧誘方法 | ナノ
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普段と違う狩野に思考を停止していた律であったが、なんとか意識を戻して箸を持ち直す。その後も周りからの強い視線に堪えながらの食事は続いた。

「なぁ、律…この後って古典、だっけ?」
「えーと、たぶん?」
「律にきいたのが間違いだったな」

律も斗真も普段通り会話をしつつも、かなりの居心地の悪さを感じていた。

律はそれに加えて、横からの熱視線もその体に受け止めていた。形の良い切れ長の瞳は、律ただ一人をその視界に移し込んでいる。

あまりにも見つめて来るので、ちらりと一瞬だけそちらを見ると、目が合ったことを喜ぶように狩野の表情が明るくなる。

会長犬みたい、と少し笑いたくなった律であったが、話しかけると面倒なことになるので、すぐに視線を戻してうどんを啜った。

横でしょんぼりとしたオーラを感じて、やっぱり犬みたいだと思った。


ようやく食べ終えた律は、礼儀正しく手を合わせてごちそうさまでしたと頭を下げる。
そのタイミングを見計らったように、狩野が律の手を掴んだ。ぎょっとして隣を見ると偉そうな顔をした狩野が律を真っ直ぐに見ていた。

「さぁ、食べ終わったな?生徒会室へ行くぞ」

偉そうな表情は美しい見た目に合っているが、その口元にはナポリタンのケチャップがついてオレンジになっている。なんとも滑稽な図である。


「だから俺、生徒会には入らないって言ってるじゃないですか…」

ぼんやりと口元のオレンジ色を見ながらそう返す律だが、狩野はめげずに「まずは見学に来い」と律の手を握りしめる。斗真が視界の端で頭を抱えているのが見えた。

「えー」
「見学に来ればきっとお前は俺と一緒に生徒会を運営したくなる」
「そんなばかな…」

呆れながらも、テーブルの上のペーパータオルを1枚掴んだ律。

「よし、とにかく行ってみなきゃ分からないからな、さぁ行くぞ小林りっ、むがっ」

律の手を引いて立ち上がらせようとした狩野の口元に、ペーパータオルを押し付けた。正面に座ってた斗真が「えっ」と声を漏らし、周囲で悲鳴のようなものが聞こえたが今は無視だ。

驚いたように目を見開いて固まる狩野の口元をごしごしと拭き、オレンジ色が取れたことを確認した律は満足気に頷いた。

「おれ、生徒会には興味ないんで、遠慮します」

じゃあ、そういうことで…と小さく頭を下げた律は、トレーを持って席を後にした。狩野同様固まっていた斗真も一瞬遅れて立ち上がる。その肩は笑いを堪えるのに必死だとでもいうようにピクピクと動いていた。

律に追いついた斗真が、とうとう堪えきれなかった笑いを喉に響かせながら肩を組んでくる。

「お前、ほんとに怖いもの知らずだな」
「だってほんとに生徒会には入りたくないんだよ」
「相変わらずだなぁ」

歩きにくい、と文句を言いながら、特に斗真を押しやることもせずに、2人はじゃれ合うように食堂を出ていった。


一方、テーブルに残された狩野は呆然と自分の口元に触れていた。

狩野が怒ったのだと勘違いした周りの生徒は、なんて失礼な男なのだと律を罵倒する。

それを一瞥で黙らせた狩野が口元から手を離しトレーを持つ。

狩野の頭の中はただひとつ。

(小林律が初めて自分から触れてきた…)

それがペーパー越しであったことはこの際どうでも良い。律が、自分から手を伸ばしたことにひたすら感動していた狩野であった。

立ち上がり、自分が片付けますと何人かが声をかけてくるのを無視し、返却口までトレーを戻した狩野は、ごちそうさまの代わりに一言。

「可愛かった…」

あらやだ、と勘違いして頬に手を当てる食堂のおばちゃんにも気付かず、本来の目的すら忘れた狩野はふわふわとした足取りで生徒会室に一人戻るのだった。

ーーー
方法1:勧誘は食事の席で
結果:見事玉砕

(だけどなんだか嬉しそう)
(もちろんまだまだ諦めません)

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