夜に秘める/藍ギン


微妙に裏。







冷めた双眸に、身体が震えた。しかし、悟られてはいけない。

ギンは思わず目を伏せた。それを見とがめて藍染は善人の面で嗤い、空気の振動が伝わってくる。ギンは更に小さく身を縮こまらせた。

「緊張しているのかい、ギン」

普段のように優しい声音で藍染が言う。ギンはうつむいたまま、何も言わない。すると藍染はすっ、と手を伸ばした。目線の先に指が突如として現れたから、驚いて顔を上げると、悪戯っぽく口許を歪めた藍染が真っ直ぐギンの眼を射抜いていた。しかし、其眼には上辺の様な優しさはなく、先刻ギンの躯を震えさせた時と同じ色をしていた。藍染の本性をまざまざと見せられる。

「…藍染さんは、何がしたいんですか」

上手く伝わっただろうか。咽が張り付いて、言の葉がでない。他に言いたい事があるはずなのに、咽の奥に粘稠のごとくひっかかる。

「何、とは」

ぎ、と寝台が大人二人の重量に堪えきれず、鈍い悲鳴をあげた。流れる様な動作で藍染の腕が持ち上げられ、ギンの右頬に触れる。まるで、白雪を掴むかのごとくふわりと撫でられた。その冷たい手に特に感慨を抱く訳でもなく、されるが儘にしておく。

「…っ」

嗚呼、冷たい大気は咽に痛い。ひうと、ギンの咽がか細く鳴る。ギンは軽い感情の昴ぶりに目を細めた。ぴくり、と微かに藍染の手がとまった。

「わからないのかい」

嘲笑うように、歪められた藍染の唇がギンのそれに押し当てられた。舌先がギンの咥内に割って入る。歯茎の裏を舐めて、ギンの舌を絡めとって、逃さないとでも言うように深く口付けた。

ギンはそっと瞳を閉じる。闇が瞼の内に侵入を果たし、視界を蝕んで行く。完全な黒い世界で、瞼の向こうにいる彼女へ思いを馳せた。


(ああ、懐かしい日々はもう夢でしか見れない)








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