月と星が眠る間に/ギン乱
社会人ぱろ。
都心に立つ超高層マンション。その中にある僕の部屋を、パンツのポケットから取出した鍵で開く。ちらり、と見た腕時計は午前0時。
「乱菊ー、おる?」
散らばる赤いハイヒールを避けて革靴を丁寧に玄関に揃えた。ついでにハイヒールも横に並べる。靴の持ち主は予想通りそうとう荒れているようだ。暗いフローリングの床に脚を踏み出して手探りで電気のスイッチを探った。かちり、と音がして廊下が明るくなる。
(うわ、)
鮮明に照らされた廊下に点々と散らばる衣服。歩き乍ら脱いで行ったのか、一直線上に為っていた。僕はそれらを広いあげつつ持ち主の所へ向かう。ついでに放られて、中身がぶちまけられていたハンドバックも拾いあげ、中身もちゃんと集めてあげた。まるでヘンゼルのようだ、と思う。落とし物を頼りに彼女の所へ。
「乱菊ー」
再度彼女の名前を呼んで、これまた電気の付いていないリビングのドアを開いた。片手には彼女の脱ぎ散らかした衣服を持っているので片腕で。彼女は多分寝ているであろうから電気は付けない。机の上に右手の荷物を置くと、そうっと白いソファに近づいた。乱菊がアンティークショップで見つけて来て、欲しいのだと強請られた皮張り鋲打ちの年代物。確かに乱菊が好きそうなデザインだとは思うけど、僕には良さがわからない。僕的にはどちらかと言えばモダンなものの方が良かったのに。
「生きてはるー?」
案の定、乱菊は下着姿でその侭ソファで寝ていた。惜し気もなくそのナイスバディーを曝して下さっている。耳元に小声で囁く。するともぞり、と金色の髪が動いた。だが起きる気配は無く。
(この侭やと、風邪ひくかもしれんなぁ)
そう思いを巡らすと、腕に持っていた荷物を机上においた。後で片付けといてあげよう。そうして、ソファの正面にまわるとそっと乱菊を抱き上げた。彼女は女性にしては身長があるので、地味に重かった。そんなことは口が裂けても本人には言えないが。俗に言うお姫様抱っこの状態で、乱菊をベッドへと運んだ。そうっとブランケットをかけてやる。それから彼女の顔にかかった髪を払って、額に触れるだけの口付けをした。
「おやすみ、乱菊」
(ぐっない、まいすいーと)
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